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STAGE00 アリサ編 STAGE01 STAGE02 STAGE03 STAGE04 STAGE05 STAGE06 STAGE07 STAGE08 STAGE09 STAGE10A STAGE11 STAGE12 STAGE13 STAGE14 STAGE15 STAGE10B STAGE16 STAGE17 STAGE18 STAGE19 STAGE20 STAGE21 STAGE22 STAGE23 STAGE24 STAGE25 STAGE26 STAGE27 STAGE28 STAGE29 STAGE30 STAGE31 STAGE32 STAGE33 STAGE34 STAGE35 STAGE36 STAGE37 STAGE38 STAGE39 STAGE40 STAGE41 STAGE42A STAGE43 STAGE44 STAGE45 STAGE42B STAGE46 STAGE47 STAGE48 STAGE49 STAGE50 STAGE51 STAGE52 STAGE53 STAGE54 STAGE55 STAGE56 STAGE57 STAGE58 Ending ストーリーイベントインターミッション 上海 USN艦隊 上海市街 STAGE39ランキング マップ 入手アイテム 味方 NPC 敵 ストーリーイベント インターミッション セットアップ ネットワーク フォーラム メール ネットワークショップ デスクトップ シミュレーター セーブ ロード 終了 上海 〔海軍基地司令室〕 会話イベント ネットワーク ネットワーク 入手 備考 メール ラン 受信 コォワン「お久しぶりです。」 会話-オペレーター「海上油田プラント」のシミュレーターマップ入手 会話-リュウ USN艦隊 〔USN空母司令室〕 会話イベント 上海市街 〔海軍基地宿舎〕 会話イベント 〔海軍基地司令室〕 会話イベント 会話-レベッカ『USN海軍』のアドレス入手 移動-宿舎 〔海軍基地宿舎〕 会話イベント 移動-基地を出る 上海市街-上海酒場 〔上海酒場〕 会話-ウワサ好きのチャオ 会話-ウワサ好きのチャオ『アミイカ』のアドレス入手 ネットワーク ネットワーク 入手 備考 フォーラム アドレス 『両虎ソフト』 『大漢中人民共和国/その他/アミイカ/情報広場/情報広場に入る/情報 3』を参照 デスクトップ ツール ピカレスク 『大漢中人民共和国/その他/アミイカ/ダウンロード/ダウンロード広場に入る/ダウンロード:ピカレスク』でダウンロード 圧漢Q 『大漢中人民共和国/企業/両虎ソフト/制品介紹(Products)/軟件下載(Download)』でダウンロード(価格:500) テキストデータ SpenderDiary《ウェン・シャンザイのスペンダー日記》 『大漢中人民共和国/その他/アミイカ/ダウンロード/ダウンロード広場に入る/ダウンロード:情報データ』でダウンロード(価格:200) グラフィックデータ DNA Analysis《DNA構造の分析》 『大漢中人民共和国/その他/アミイカ/ダウンロード/ダウンロード広場に入る/ダウンロード:画像データ』でダウンロード パスワード [REBSY] テキストデータ「SpenderDiary《ウェン・シャンザイのスペンダー日記》」に密文同士を使用後、参照 [PLANM] [SURSLN] [EMIR] [RAT2C] グラフィックデータ「DNA Analysis《DNA構造の分析》」にピカレスクを使用後、参照 [OVERRN] 移動-店を出る 上海市街-東方明球塔 〔東方明球塔〕 会話イベント 会話-女 〔上海酒場〕 会話イベント 会話-メイヤー ネットワーク ネットワーク 入手 備考 メール 和輝 受信 桐生悠一「クーデター」 会話-メイヤー 〔海軍基地宿舎〕 会話イベント 会話-美穂メイヤー加入 〔海軍基地司令室〕 会話イベントリュウ復帰 ネットワーク ネットワーク 入手 備考 フォーラム アドレス 『USN特殊放射線研究所』 『USN/政府/F.A.I/関係者用/FAI INTERNAL INFORMATION[IAF001]/THE ORIGIN OF MIDAS』を参照 『ラーブヌイ国営科学研究所』 『USN/政府/F.A.I/関係者用/FAI INTERNAL INFORMATION[IAF001]/IMAGINARY NUMBERS』を参照 『サイナミックソフト』 『USN/政府/USN特殊放射線研究所/関係者用[SURSLN]/E-MAIL RECORD BETWEEN RESEARCHERS/WILLIAM BACKHOLTZ - EMIR KRAMSKOI』を参照 『イントレピッドステュピッド』 『USN/政府/USN特殊放射線研究所/関係者用[SURSLN]/E-MAIL RECORD BETWEEN RESEARCHERS/WIL KEN - EMIR KRAMSKOI』を参照 『ディアブルアビオニクス』 『USN/企業/サイナミックソフト/トピックス/ドライバー紹介』を参照 パスワード [08DHMD] 『大漢中人民共和国/企業/両虎ソフト/伺候机(Server)[CLOT]/絶密資料1』を参照 [MARINE] 『大漢中人民共和国/企業/両虎ソフト/伺候机(Server)[CLOT]/絶密資料2』を参照 [IAF001] 『USN/政府/USN海軍/関係者用[MARINE]/CAPTAIN OF THOMAS JEFFERSON FLEET』を参照 メール リュウ 受信 パスワード [ALONE] マイク・デービス「IN報告03」 テキストデータ Report ANTHONY《アンソニー・バーキンスに関する報告書》 美穂 受信 パスワード [CLOT] キンカクジ「NO.0125」 デスクトップ ツール ノーウェイトリフティング 『USN/企業/サイナミックソフト/トピックス/製品情報(ダウンロード可能)』でダウンロード(価格:500) 背景グラフィック Game《Xday in London》 『USN/企業/サイナミックソフト/トピックス/新作ゲーム紹介』でダウンロード DregM2C《ドレーグM2Cの3DCG》 『USN/その他/イントレピッドステュピッド/ダウンロード/ダウンロード:ドレーグM2Cの3DCGイラスト』でダウンロード パスワード [FIINNO] テキストデータ「Report ANTHONY《アンソニー・バーキンスに関する報告書》」に密文同士を使用後、参照 移動-基地を出るSTAGE39 上へ STAGE39 広島森林公園 勝利条件 敵パイロットの全滅もしくは投降 敗北条件 プレイヤーパイロットの全滅もしくは日防軍兵士の死亡 出撃パイロット選択 和輝 / 亮五 / アリサ / リュウ / 美穂 / ファム / ラン / メイヤー ランキング 基準値 敵排除数 5 総戦闘回数 20 平均ダメージ 85 平均武器レベル 13 ターン数 5 NPC残数 - マップ 地形 進入不可 段差 スロープ ▼ 障害物 平地 不整地 緑地 X 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 Y 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 気絶不可 - 混乱不可 - 戦意喪失、投降不可 - 強制排出不可 - 序盤、敵ユニット(敵1 / 2)は移動後、味方ユニットが接近するまで行動しない 上へ 入手アイテム 入手先 名称 備考 敵4 / 5投降 バックパック BX056 上へ 味方 No. 名前 移動力 バーツ 武器 人物 アイテム APNow / Max Body HP状況Now / Max 格闘力 減少率 AP設定/改造LV 防御 L.Grip 属性 種類 AP 熟練 攻撃 弾数Now / Max 射程 命中率 距離低下率 段差低下率 HPNow / Max エースランク ポイント バトルスキル L.Arm 命中 命中 L.Shld 武器熟練度 回避(回避率) R.Arm 命中 R.Grip 格闘武器 ショットガン グレネード Leg バーニア ダッシュ 回避 R.Shld マシンガン 火炎放射 キャノン 属性防御 B.Pack 追加出力 ライフル ミサイル ビーム 1 × 2 × 3 × 4 × 上へ NPC No. 名前 移動力 バーツ 武器 人物 アイテム PRIZEMONEY APNow / Max Body HP状況Now / Max 格闘力 減少率 AP設定/改造LV 防御 L.Grip 属性 種類 AP 熟練 攻撃 弾数Now / Max 射程 命中率 距離低下率 段差低下率 HPNow / Max エースランク ポイント バトルスキル L.Arm 命中 命中 L.Shld 武器熟練度 回避(回避率) R.Arm 命中 R.Grip 格闘武器 ショットガン グレネード Leg バーニア ダッシュ 回避 R.Shld マシンガン 火炎放射 キャノン 属性防御 B.Pack 追加出力 ライフル ミサイル ビーム 5 五木修 3 110式 陣陽 584 / 584 -- 15% ■ ■ ■ 日西90MF 貫通 マシンガン 5 D★ 18×10 ∞ 1~4 80% 10% 5% 20 / 20 ★★★★★ ×0 - 15 / 15 110式 陣陽 364 / 364 ×10%UP ■ ■ ■■ ■ ■ ------ 32% 110式 陣陽 364 / 364 ×10%UP 10式装甲 シールド 2 ダメージ 70%減 6 / 6 耐炎熱 110式 陣陽 481 / 481 6段 3倍 ■ ■ ■ ------ D★ BPT12B 60 上へ 敵 No. 名前 移動力 バーツ 武器 人物 アイテム PRIZEMONEY APNow / Max Body HP状況Now / Max 格闘力 減少率 AP設定/改造LV 防御 L.Grip 属性 種類 AP 熟練 攻撃 弾数Now / Max 射程 命中率 距離低下率 段差低下率 HPNow / Max エースランク ポイント バトルスキル L.Arm 命中 命中 L.Shld 武器熟練度 回避(回避率) R.Arm 命中 R.Grip 格闘武器 ショットガン グレネード Leg バーニア ダッシュ 回避 R.Shld マシンガン 火炎放射 キャノン 属性防御 B.Pack 追加出力 ライフル ミサイル ビーム 1 日防軍特殊部隊ヴァンツァー兵 3 110式 陣陽 584 / 584 116% 15% ■ ■ ■ 日西90MF 貫通 マシンガン 5 D★ 18×10 ∞ 1~4 80% 10% 5% 20 / 20 ★★★★★ ×0 Fallショット 150 15 / 15 110式 陣陽 364 / 364 ×10%UP ■ ■ ■■ ■ ■ ------ 32% 110式 陣陽 364 / 364 ×10%UP ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% D★ 耐貫通 110式 陣陽 481 / 481 6段 3倍 ■ ■ ■ ------ D★ ------ 2 日防軍特殊部隊ヴァンツァー兵 3 110式 陣陽 584 / 584 116% 15% ■ ■ ■ 日西90MF 貫通 マシンガン 5 D★ 18×10 ∞ 1~4 80% 10% 5% 20 / 20 ★★★★★ ×0 Fallショット 150 15 / 15 110式 陣陽 364 / 364 ×10%UP ■ ■ ■■ ■ ■ ------ 32% 110式 陣陽 364 / 364 ×10%UP ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% D★ 耐貫通 110式 陣陽 481 / 481 6段 3倍 ■ ■ ■ ------ D★ ------ 3 日防軍特殊部隊ヴァンツァー兵 3 110式 陣陽 584 / 584 116% 15% ■ ■ ■ 日西90MF 貫通 マシンガン 5 D★ 18×10 ∞ 1~4 80% 10% 5% 20 / 20 ★★★★★ ×0 Fallショット 150 15 / 15 110式 陣陽 364 / 364 ×10%UP ■ ■ ■■ ■ ■ ------ 32% 110式 陣陽 364 / 364 ×10%UP ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% D★ 耐貫通 110式 陣陽 481 / 481 6段 3倍 ■ ■ ■ ------ D★ ------ 4 日防軍特殊部隊ヴァンツァー兵 2 109式 炎陽 502 / 502 115% 15% ■ ■ ■ ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% 20 / 20 ★★★★★ ×0 パニックショット ミサイル弾リペアMax 150 15 / 15 109式 炎陽 316 / 316 ×12%UP ■ ■ ■■ ■ ■ ------ 32% 109式 炎陽 316 / 316 ×12%UP ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% D★ 耐炎熱 109式 炎陽 463 / 463 7段 4倍 ■ ■ ■ ナイチンゲール 炎熱 ミサイル 10 D★ 124×1 6 / 6 3~9 80% 0% 0% BX056 D★ 5 日防軍特殊部隊ヴァンツァー兵 2 109式 炎陽 502 / 502 115% 15% ■ ■ ■ ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% 20 / 20 ★★★★★ ×0 パニックショット ミサイル弾リバースMax 150 15 / 15 109式 炎陽 316 / 316 ×12%UP ■ ■ ■■ ■ ■ ------ 32% 109式 炎陽 316 / 316 ×12%UP ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% D★ 耐炎熱 109式 炎陽 463 / 463 7段 4倍 ■ ■ ■ ナイチンゲール 炎熱 ミサイル 10 D★ 124×1 6 / 6 3~9 80% 0% 0% BX056 D★ 上へ
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある10人のハロウィンパーティ Let s_make_a_pumpkin_pie! 10月末となった土曜日。 明日はいよいよハロウィンパーティ当日だ。 そんな土曜の10時頃に、美琴はとある自販機前に来ていた。 別に蹴りに来たわけではない。とある人物との待ち合わせである。 「アイツいつまで待たせるつもりよ……」 待ち合わせ時間はとっくに過ぎていた。もうちょっとで30分経つ。 イライラし始めた美琴が久々に自販機を蹴ってやろうとか思い始めていた、その時。 「ごめーん。待ったー?」 どこかで聞いたようなセリフが、そのセリフに似合わない男の声で聞こえてきた。 「待ったー? じゃ、ないわよ!!」 電撃炸裂。ふざけたセリフとともに登場した待ち人を、美琴が問答無用で迎撃した。 「うおっ!? あっぶねー……冗談が通じない奴だなぁおい」 「アンタ、それが人を1時間も待たせた人間の言うセリフかしら?」 「いや、そりゃ悪かったけどさ。にしたって電撃は割に合わないって……て待てよ。1時間てお前、約束時間の30分前から待ってたのか?」 「そ、そうだけど……立ち読みしてた漫画が思ったより早く読み終わっちゃったから早く着いただけよ何か文句ある!?」 息継ぎせずに言葉を並べ立てたせいで、少々息が荒くなる美琴。 興奮したせいで、額からは青白い火花が散っている。 「いや文句とかないからその火花をどうかお納め下さい」 迷わずその場で美しい土下座を決める上条。土下座の美しさを競う大会があれば、必ず優勝出来るに違いない。 「ふんっ。最初から素直にそうやってれば良かったのよ、馬鹿」 「申し訳ございませんでした、姫」 「もういいから立ちなさい。ただでさえ時間押してるんだから、早くアンタん家に行くわよ」 情けなく土下座している上条に、美琴が右手を差し伸ばす。 その手を取って立ち上がった上条は、美琴が左手に下げている袋に気付いた。 「それは?」 「ん? あ、これ? エプロンとかレシピとかよ」 「ああ、じゃあ俺が持つよ」 上条は美琴が持っていた袋をヒョイと取り上げる。 「そんなのいいわよ」 「いいって。遅れたお詫びな」 ニカっと笑って歩き出す上条の後を、美琴が慌ててついて行く。 はぐれるわけにはいかない。なぜなら、 (やっと当麻の家に行けるんだ……!!) 今日は美琴が初めて、上条宅を訪れる日なのである。 先週、佐天から一斉送信されたメールにはこう書いてあった。 ★ ★ ★ みなさーんっ いよいよ来週は待ちに待ったハロウィンパーティですね! というわけで、今日は役割分担を発表します☆ 土御門さん&青ピさん クラッカーを人数分お願いします。 他にも面白そうなパーティグッズがあれば是非! 婚后さん&湾内さん&泡浮さん 何でもいいのでお菓子をお願いします。 たとえば、パスティッチェリア・マニカーニとか たとえば、パスティッチェリア・マニカーニとか たとえば、パスティッチェリア・マニカーニとか! 御坂さん&上条さん 手料理担当 白井さん&初春&佐天 手料理担当 初春との独断ですが、ヨロシクお願いしますねw 手料理班はキッチンの広さとスキルの都合上、2つに分けてます。 作るものは相談して決めましょう★ ではではっ ★ ★ ★ それは美琴にとってあまりにも衝撃的内容であった。 読み終わった瞬間は、学区を越えてまでして手に入れた限定ゲコ太マスコットを、思わず握り潰してしまいそうになるくらい。 (あ、アイツと2人でててて手料理!?) しかも、2人が住んでいる寮の関係上、必然的に美琴が上条宅へ赴いて料理することになるわけだ。 その翌日、佐天から電話が掛かり、互いの役割分担の詳細を決めた。 美琴と上条に任された料理は、パーティのメインとも言えるもの。 『私たちは簡単なご飯ものを作るので』 電話の向こうから聞こえる、佐天の明るい声。それが告げたのは、 『御坂さんたちはパンプキンパイを作って下さい♪』 実にハロウィンらしいお菓子の名前だった。 他愛もない会話を交わしていると、程なくして上条の寮へと着いた。 先を行く上条の後を、美琴はドキドキしながらついて歩く。 すると、とあるドアの前で上条が立ち止まった。 「ここが俺の部屋。さっきから言ってる通り、常盤台の寮とじゃ広さの綺麗さの比べ物にならないからな」 「わ、わかってるわよ」 表札にある確かな「上条」という文字。その文字をじーっと見詰める美琴の頬は、みるみる赤くなってゆく。 (いつか私も上条美琴に……) 「おい、何突っ立ってんだ? 早く入れよ」 「ふぇ?」 美琴が我に返れば、上条はすでに中に入っていて、美琴のためにドアを開いている状態であった。 「あ、う、うん」 美琴が入った瞬間、背後でガチャンという音がする。上条が鍵を掛けたのだ。 「っ!!」 緊張で背筋がぞくっとした美琴だが、上条は何も気にすることなく部屋へと上がる。 「ここが洗面所だから。手洗ったら早速始めようぜ」 「わ、わかったわよ。よーし……」 何やら一人意気込んでから、美琴は靴を脱ぐ。 部屋中に満ちる上条の匂いに、頭がくらっとするも同時に安心感を覚えた。 (せ、せっかくのチャンスだもん。料理が出来るってとこ、アピールするべきよね) 脱いだ靴を綺麗に揃えて置き直し、手を洗うために洗面所へと入る。 先に手を洗った上条が、すれ違い様に壁に掛けてあるタオルを指差した。 「あのタオル使えばいいから」 「あ、うん。ありがとう」 しかし、手を洗い終えた美琴はタオルに手を伸ばしたところで固まる。 「……、」 タオルがすでに湿っている。先に上条が使ったのだから当然そうなるわけだが、問題はそこではない。 (アイツ、顔も洗ってた) そう、暑かったのかは知らないが、上条が水で顔を洗ってタオルで拭いていた。ということは、 (これを触れば間接的にアイツの顔を触ったも同じっッッ!?) 恋愛初心者、御坂美琴。 彼女にとってこのハードルは高かった。 「やっと来たか。随分と遅かったな?」 「う、うっさい。女の子には色々とあるのよ」 「ふーん。まぁ、いいけどさ」 結局、1分程固まった後に美琴はキッチンへ現れた。言うまでもなく、顔はリンゴのように赤い。 「お前のエプロン、そこに置いてあるから」 そう言う上条はすでに自分のエプロンを付けていた。シンプルな青いエプロンで、ポケットなどが付いている実用的なタイプだ。 一方、美琴のエプロンは実用的とはいえないデザインだった。可愛さ重視の薄いピンク色のエプロンで、白レースまで付いている。 「へぇ、なんか意外だな」 「どういう意味よ?」 「いや、てっきりカエル柄かと思ってたからさ」 「わ、私だってこういうのも持ってるわよ!」 珍しくカエル柄でないのは、今日を意識しての選択だ。 子供っぽいものが少女趣味になっただけで実際あまり大差はないのだが、美琴にしては大きな進歩と言えるだろう。 「よし。御坂が持ってきてくれたレシピもあるし、早速始めるとしますか」 「材料と器具は揃ってるわよね?」 「ああ。お前のメール見て、指示通りに出しておいたぞ」 得意げにキッチンに並んだ調理器具を見せる上条。 「材料は……」 「卵やバターは冷蔵庫の中。調味料とカボチャはこっち」 レシピを見ながら美琴が最終確認を行う。 「うん、下準備もバッチリ。バターもちゃんと2cm角で切ってくれてるし。さすが自炊してるだけのことあるわね」 「まぁな。でも、菓子作りは初めてだからさ。お手柔らかに頼みます」 「美琴センセーに任せなさいっ♪」 何かすることがあるというのはいい。 料理をするという目的があるおかげで、美琴は先程までのように過剰に上条を意識せず、リラックス出来るようになっていた。 「じゃあ、まずはどうするんだ?」 「水と卵黄を合わせて混ぜて。出来たら冷やしておいてね」 「お前は?」 「薄力粉とバターを混ぜるわ。あ、今からするのは生地作りね」 「おう」 バターが米粒大になるまで美琴が混ぜ終わった後、上条が混ぜた冷水と卵黄を混ぜたものを加えた。 生地を一纏めにするのは、上条が自ら進んで引き受けた。 それをラップフィルムで丁寧に包み込んだ美琴は、冷蔵庫の扉を開けて言う。 「ひとまずこれで終わり。続きは1時間後、生地が冷えてからね」 「へ? もう終わりなのか?」 「冷えてからに型に敷くの。冷えてた方がさっくりとした生地が作れるらしいわよ」 美琴はレシピに書かれたワンポイントアドバイスなる箇所を指差す。 「確かに。でもさ、御坂」 上条はレシピに目を通して首を傾げた。 「こうなるって知ってたなら、生地づくりは俺が昨日の内に終わらておいた方が良かったんじゃないか? このレシピを見る限り、生地を型に敷いた後にも最低1時間冷やすって書いてあるし、出来れば1日冷やした方がいいとも書いてあるぞ」 もっともな上条の疑問。 しかし、美琴は平然と答える。 「いいのよ、これで。この時間はお昼ご飯作るし、次の1時間だって他にすることあるし」 「へ? 昼飯、作ってくれるのか?」 「え、いらないの? 明太子クリームパスタ作るつもりなんだけど……」 そう言って、美琴はエプロンを入れていた袋を指差す。 どうやら中にはパスタの材料も入っていたらしい。 「いや、食べる! でも、次の1時間は? 何するつもりなんだ?」 「そんなの決まってるじゃい」 美琴はさも当然といった様子で答える。 「アンタの宿題を片付けるのよ。どうせ今週もまた大量に出されてるんでしょ?」 「うっ!? なぜそれを御坂さんが知ってるんでせうか!?」 「聞かなくったってわかるわよ。いつものことじゃない」 「うっ……返す言葉がありません」 高校生が中学生に宿題のことを指摘されるとはこれ如何に。 とは言っても、相手は学園都市第3位にして大学レベルの授業を受けている少女。学力の差は明らかだ。 「わかったらエプロン外して、アンタは宿題に取り掛かりなさい。パスタは私1人で作れるから」 「了解であります……」 土曜の昼前より始まった上条と美琴のパンプキンパイ作り。 どうやら今日は美琴センセーの家庭教師dayでもあったようだ。 お昼に食べた美琴お手製の明太子クリームパスタは絶品だった。 本人曰く簡単な料理らしいが、上条が作るそれよりも遥かに美味しかった。 「ごちそうさまでした。いやいや本当に美味かったですよ」 「そう言ってもらえると作りがいあるわ」 喜んで完食してくれた上条に、美琴はにっこりと微笑みかけた。 口周りに少しクリームソースが付いている上条を、とても愛おしく感じる。 「そろそろ1時間経ったし、生地作りに戻りましょうか」 「おっ、もうそんな時間か」 上条は2人分の皿を持って立ち上がると、キッチンへと運ぶ。 「洗うのは俺がするからさ。生地の方頼んでいいか?」 「いいわよ。そっちが終わったら手伝ってね」 「もちろんですよ」 冷蔵庫から取り出した生地を、美琴はパイ皿より一回り大きくなるように麺棒で伸ばす。 その途中で、洗い物を終えた上条が交代した。 「これくらいでいいか?」 「うん、いい感じ」 出来上がった生地を型に敷き込むのは美琴の役目になった。 上条曰く、「不幸な俺がやったら生地が破れるに違いない」ということらしい。 「これでパイの部分は完成か?」 「ううん、まだ」 パイ皿からはみ出た生地をナイフで切り取りながら、美琴が簡潔に答えた。 「本当はこれで完成でもいいんだけどさ。せっかくのハロウィンだし、ちょっと手の込んだことしてみようかなって思うんだけど」 「どうするんだ?」 「ここにある余ってる生地と、そこに置いてある星形の型抜きを使うの」 「この型抜き、お前が持ってきたのか?」 「うん。まぁ、見てなさいって」 美琴の手によって、余っていた生地から次々と可愛らしい星が生まれる。 「ね、卵黄ちょっと用意して」 「卵黄?」 「いいから、早く」 上条が指示通りに卵黄を用意すると、美琴はそれを型に敷いた生地の周囲に塗り始めた。 そして、それを接着剤代わりに、先程作り出した星を貼り付けてゆく。 「出来たっ!」 最後に型ごとラップフィルムをして、美琴は再び生地を冷蔵庫に戻した。 「これでパイ部分は完成よ。最低1時間だけど、長ければ長いほどいいから、アンタの宿題を片付けてから次の作業に移りましょう」 上条の方へと振り返り、にっこりと家庭教師モードへ移行する美琴。 「まずはさっき頑張ってたところ、見てあげるわ」 「是非お願いします、美琴センセー」 この週末、上条が小萌先生から頂戴した宿題(と+αな課題たち)は、美琴の助けをもってしても3時間掛かってしまう多さだった。 ちなみに、美琴1人でならば1時間足らずで片付けられる内容だったが、あくまで上条が理解出来るまで説明した結果が3時間なのだ。 「陽が大分傾いてきたわねー」 「そうだなぁ……って! もう16時前じゃねーか!?」 「まぁまぁ、これで明日も心置きなく騒げるんだからいいじゃない」 にっこりと微笑む美琴が、上条には一瞬マリア様のように見えた。 いやそれどころか、神様の御加護さえ打ち消すという右手を持つ上条にとって、課題という現実的な苦しみに共に立ち向かってくれる美琴は、 実際のマリア様以上に尊い存在と言えるかもしれない。 「さてと。課題も全部片付いたことだし、作業に戻りましょうか。生地も3時間冷やせば十分だしね」 美琴は脱いでいたエプロンを再び身に付けた。 「フィリング作るから、カボチャの種と皮を取り除いてくれる? 終わったらレンジで2分半ね」 「おー、了解」 忘れない内に提出物を学生鞄の中へと入れ、上条も再びエプロンを身に付ける。 2人のパンプキンパイ作りは、今再びスタートした。 上条が裏ごししたかぼちゃに、美琴がサワークリーム、グラニュー糖、シナモンパウダーを順に加える。 「パイ生地出してくれる?」 「おいよっ」 冷蔵庫から冷えたパイ生地を取り出す上条。 滑らかになるまでフィリングを混ぜ合わせていた美琴は、出来上がったそれをパイ生地へと流し込む。 「ね、オーブン予熱してくれたのよね?」 「ああ。180℃だろ?」 「うん。じゃあこれを中に。タイマーは45分ね」 「わかりました美琴センセー」 「い、今はもう先生じゃないわよ馬鹿」 ちょっと頬を赤らめて否定する美琴だが、まんざらでもないようだ。 どのような形であれ、想い人に名前を呼ばれるのは嬉しいらしい。 パイをオーブンに入れた後、2人は調理器具の後片付けを始めた。 しかし、それも5分程で終わってしまい、今日1番の沈黙が2人を包む。 「……、」 「……、」 料理も終わり、課題も終わり、あとはパイの焼き上がりを待つのみ。 することがなくなってしまった今、美琴は例のタオルを目の前にした以来のテンパり具合を見せていた。 (ど、どうしよう……すごく緊張するんだけどっ!?) 一方の上条も、見た目はともかく内心は心臓バクバクである。 (こんなしおらしい御坂、御坂じゃねえ! コイツこんなに可愛かったか!?) いや、それは恋する乙女に失礼じゃないか上条当麻。 現在、美琴は上条と一緒に上条のベッドにもたれ掛かって座っていた。 理由は簡単で、上条の部屋に椅子なるものがないからである。 ちなみに、2人の間は30cmほど空いている。 「ね、ねぇ。テレビ付けてもいいかしら?」 「も、もちろんいいぞ。どうぞお付け下さい。何かいい番組やってるといいな」 少しでもこの空気を変えようと、テレビを付ける2人。 どうやら恋愛ドラマの再放送をしているようだ。しかも、ちょうど山場らしい。 『ヒロシさん……』 『もう君を離さないよ。君は僕のモノだ!』 『ヒロシさんっッッ!!』 ……付けたタイミングが悪かった。 「「っ!?」」 突然液晶画面いっぱいに映るとある男女のキスシーン。 慌ててテレビを消した美琴であったが、それが余計に空気を重くした。 「「……、」」 あからさまな過剰反応は、「意識してます」と言っているも同然なのだ。 「あ、あのな御坂」 「な、何よ?」 「気にしなくていいから、さ」 「な、何のことかしら? 別に私は何も気にしてないんだけど?」 ツンとした態度をとる美琴。 仮にもしここで、 『そんなこと言われたって意識しちゃうに決まってるじゃない! だって私、当麻のことが大好きなんだからっ!』 ……とでも言えれば新たなカップルが誕生したのかもしれないが、残念ながら美琴がそんなに素直なわけもない。 「いや、気にしてないんならいいんだけどさ」 ツンとした美琴に、ちょっぴり残念そうな笑顔を向ける上条。 (意識してたのは俺だけだったのかな……) そんなわけはない。ないのだが。 鈍感な上条と素直になれない美琴は、互いの気持ちを読み取ることがなかなか出来ない。 そのまま気が付けば40分経っていた。 オーブンがアラームを鳴らして焼き上がりを告げる。 「あ、焼けた」 キッチンへと戻り、オーブンを開ける美琴。 開ける前からいい匂いが漂っていたが、焼き加減も完璧であった。 「わぁ! 美味しそうに出来たじゃない。ちょっとー、アンタもこっち来て見てみなさいよー」 しかし、上条からの返事はない。 不信に思ってベッドの方を見てみると、 「……、寝てる?」 そう、上条は頭をベッドの上に乗せて寝てしまっていた。 実は焼き上がる数分前から寝てしまっていたのだが、テンパっていた美琴は全く気付いていない 「もう、仕方ないわねー」 肌寒い季節だ。このままだと風邪をひいてしまうかもしれない。 「ほら。まぁ、アンタ今日はよく頑張ったものね。お疲れ様」 ベッドの上から毛布を引き抜き、上条へと掛けてやる。 そしてキッチンへ戻ると、冷蔵庫を開けた。 「……なるほどね。よし、決めた」 再びエプロンを身に付ける美琴。 上条がまだ寝ているのを確認してから、美琴は再びキッチンに立った。 上条が目を覚ますと、外は真っ暗になっていた。 「……あれ?」 掛けた覚えのない毛布を見て、すぐに美琴がいることを思い出す。 「やべ! 寝ちまったのか俺!?」 キョロキョロと辺りを見回すが、人の気配はない。どうやら美琴はもう帰ってしまったようだ。 「悪いことしたな……電話して謝るか」 時計を見れば20時を回っていた。3時間ほど眠ってしまっていたらしい。 キッチンへ行けば、冷蔵庫にメモ用紙が貼り付けてあった。 『パンプキンパイ、冷蔵庫の中で冷やしてます。白い箱のがそうだから、明日絶対忘れないように! 美琴』 冷蔵庫を開けてみれば、確かに白い箱が入っていた。箱の側面には、なめらかな筆記体で『pumpkin pie』と書いてある。 「筆記体書ける奴ってカッコイイよなぁ」 そんなことを呟きながら、冷蔵庫の扉を閉める。 その際、上条はメモの続きがあることに気付いた。 メモは告げる。 『P.S. 簡単なものだけど晩ご飯作っといたから食べて』 「晩ご飯?」 冷蔵庫を再び開けるが、それらしきものは見つからない。 どこにあるのかと周りを見回せば、調理台のところにラップフィルムが掛けられたそれが見つかった。 「これは……!」 それは、美琴お手製の肉じゃがだった。 まさに昨日、上条自身が肉じゃがを作るつもりで買っていた食材を、急遽晩ご飯を作ろうと思い立った美琴が使ったのだ。 まだ温かいことを考えると、美琴は先程作り終わって帰ったところに違いない。 再びレンジで温める必要もなく、上条はそれをそのままテーブルへと運んだ。 「いただきます」 その肉じゃがは昼のパスタ同様、上条が作るそれよりもずっと美味しかった。 何が違うってそりゃ美琴の愛が詰まってるから……というわけでなく、きっと上条にはわからない隠し味やポイントがあるに違いない。 もちろん、上条が感じ取っているかは別として、美琴の愛がたっぷり含まれているは本当だろう。 「美味しい……アイツ絶対いい嫁さんになるだろうなぁ」 そのアイツはお前の嫁になることを望んでいるんだよ、上条当麻。 ……というようなツッコミを入れてくれる人がいれば良かったのだが、そんな都合の良い展開はない。 しかし。 「勉強も見てもらって、こんな美味しいご飯も作ってもらえて、上条さんは本当に幸せ者ですな。御坂もビリビリさえしなきゃ可愛い女の子なんだもんなぁ」 食べ終わった上条は、そんなことを呟くいて頬を染める。 応援隊の作戦通り、恋する美琴の手料理は確かに上条の胃袋を掴んだのみならず、その鈍感な心をもちょっぴり動かせたようだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある10人のハロウィンパーティ
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第1章 表と裏と光と影と Intersecting_speculation 1 十一月二十一日、学園都市は異常なまでの活気に満ちていた。 三日後に迫った一端覧祭の準備に大忙しだからだ。 この一端覧祭は大覇星祭と同じく世界最大規模の文化祭であり、大覇星祭と同じく世界に公開されるので注目度も高い。 しかも演劇やクイズショーなどを学生達が能力をフルに使って演出する為、下手な映画よりも見応えがある。 一端覧祭には大覇星祭のように他校と得点を競い合うというのはないが、クリスマスイブの丁度一ヶ月前という事で学生(特に女生徒)にとって一つ大きな意味がある。 「毎年思うんだが、この時期の女子って妙に殺気立ってないか?」 浜面仕上はいつもとは違いすぎる街並を見て溜息とともに言う。 「それは、はまづらが、鈍感なだけ」 隣にいる少女はバッサリと斬り捨てる。 上下ピンクのジャージで街を歩き回るのは意外と目立つらしい。微妙に好奇の視線が突き刺さる。 右を見れば青髪で体格のいい少年が「俺はいつでも誰でもオッケーなんやでぇ~。」などと喚いている。 左を見れば黒髪ツンツン頭の少年が電撃を浴びながら「不幸だ~!」などと叫んでいる。 なんか聞き覚えのある声だがおそらく気のせいだろう。 彼らは現在『表』の住人として生活している。 先月激闘の末、学園都市第四位を退けた無能力者はその後『アイテム』下部組織を脱退し、普通の無能力者として生活している。 そして隣にいる少女、滝壺理后となぜか同居生活を続けている。 (いや、まあ確かにこいつには幸せになってもらいてえけどよ。確かに俺としてもやる事があるわけだけどよ) 「はまづら?」 (それにしたっていきなり同居はねえだろ…。何考えてんだあの巨乳警備員) 「はまづら」 (しかもこいつはこいつで全然意識もしないでくっついてくるし…。この一ヶ月色んな意味で生きてる心地がしないぜ) 「はまづら!」 クイクイ、と滝壺は浜面の袖を掴んで少し強い口調で問いかける。とは言っても彼女の平坦な口調での話なのでその些細な変化に気付けるのは浜面だけだ。 「ん?ああ、どうした?」 「はまづらが、ボーっとしてる」 「…そのセリフをお前に言われるとはな」 「はまづら。どこ行くの?」 「ああ、ちょっとした知り合いの所だ。割と大事な話があるからな」 「?」 滝壺は首を傾げるが、浜面は構わず進む。滝壺も置いていかれないようについていく。 「ちょっとした交渉だよ。今の状態のままじゃ流石に色々とまずいだろ?」 「何がまずいの?」 「今の状態だよ。いくら何でも同居状態はまずいだろ。それにお前は学校の寮が手配されてるって話じゃないか。だったらそっち行った方が生活しやすいぞ」 浜面は何の気なしに言ったが、その言葉は滝壺を怒らせるには充分すぎた。 「はまづら。やっぱり鈍感」 ボソリ、と小声で恨み事を言う滝壺の背中から黒いオーラが出ているのは気のせいだ。と浜面は自分に言い聞かせていた。 2 「結局、彼らはどうなったんですか?」 『ん?まぁこっちで保護するって話にはなったんだけど…。正直、私としては反対なのよねー。貝積の野郎がしつこくてさー』 「どういう事なんですか?」 『今戦争が起きそうな話は知ってるでしょ?んで、学園都市と手を組んでる組織が内乱起こしちゃってさー』 「それとこれと何の関係があるんです?」 『単純にそこまで時間と人を割けないって事。「猟犬部隊」は再編の目処が立たず、「未元物質」と「原子崩し」も失って今の学園都市は満身創痍なのよねー』 そこで電話口の女は一つ溜息を挟んで、 『イギリスの動向に注意しつつ、ローマも相手にしなきゃいけない状況なのに、更に厄介事を持ち込まれちゃたまんないわけよ』 女はそう言ってはいるが、口調からしてそこまで困っているようには感じられない。 『ところでさ、絹旗ちゃん?』 「何です?」 『新人のあの子、どうよ?』 「超使えないです。敵にやられるだけならまだしも、能力暴発させて超死にましたけど」 『死んでたのかよっ!』 「何であんなのよこしたんです?」 『しょーがないじゃーん。だって「スクール」はうざいし、「ブロック」と「メンバー」は消滅しちゃったし。こっちも人材不足なのだよ』 はぁ、と絹旗は溜息をつく。何でこんなわがままな女が『アイテム』の上役なのだろう。 『やっぱそこはさ、「アイテム」新リーダーの絹旗ちゃんにしか頼めないなーなんて。頼りにしてるんだよー?』 「頼りにしてくれるのは超ありがたいんですけど手回しくらいはきちんとして欲しいんですが」 『どゆ事?』 「先月私が海外出張しに行った事覚えています?あの時、向こうのホテルの予約が取れてなくて超野宿したんですけど?」 『あ…』 「あと先週の回収任務の給料貰ってないんですけど」 『あぅ…』 「ついでに一昨日貨した五千円、超返して下さい」 『いや、あのね、絹旗ちゃん?』 「何ですか?」 『そこは後ばら』 「超却下です」 絹旗は女の言葉を最後まで聞かずに宣告した。 「とりあえず今からそっちに向かいます。それまでに用意しといて下さい。もしできなかったら超デコピンなので」 『いやーーーー!!それはやめてーーーーー!!?前回あれやられて一週間も腫れてたんだからーーーーー!!!!!!』 電話口でぎゃあぎゃあ騒ぐ女を無視して電話を切ると、絹旗は狭い路地裏に消えていった。 3 土御門元春は黙考していた。 最近、義妹の舞夏の様子がおかしい。 思えば先月のいつだったか、隣の上条宅に突っ込んで行ってからおかしくなっている。 いや、厳密に言えば突っ込んで行った時点でおかしかったが。 とにかく、以前のように「兄貴ー」と笑いながらとてとて寄ってくる事がなくなってしまった。 なんだこれは。反抗期なのか。自分は舞夏に反抗されるような事をしたのか。 否。そんなはずはない。 毎日記入している門外不出の『舞夏育成ノート』にはそのような記述は一切ない。 万一あったとしても自分がそのような愚行を犯しておいて、忘れるはずがない。 ではなぜ…? 「にゃー…」 べちゃり、と音がしそうなくらいの脱力ぶりでテーブルに突っ伏すシスコン軍曹。 そのテーブルには舞夏が早起きして作ったのであろう、味噌汁が入った鍋が置いてある。 その鍋を見つめながらシスコン軍曹は再び思考の渦に身を投じる。 事の発端は天草式の少女が上条の部屋を訪れた日だ。 舞夏と楽しくホワイトシチューをつつくはずだったのに、当の舞夏が突然血相を変えてベランダの壁をぶち抜き上条宅へと突入していった。 ほどなくして戻ってきたと思えば味噌汁がどうのこうので舞夏クッキングタイムに入ってしまった。 こうなると兄でも手がつけられない。 話だけでも、と一度だけ邪魔をした時があったが、その時は凄まじいボディブローを食らい一撃KOされている。 それからというものの、舞夏の味噌汁奮闘記に付き合わされ続けている。というか味噌汁しか出てこない。 愛する義妹の手料理と言えど、一ヶ月以上も毎日味噌汁しか出てこないとなると流石のシスコン軍曹も飽きてくる。 (にゃー…。味は文句なしなんだが、以前のような愛がないにゃー。これでは俺の腹は満たせないんだぜい) しかし、こんな事を意見すれば待っているのは悶絶ボディブローだ。味噌汁をぶちまけたくなかったら黙って食べるしかない。 「食べ物に不自由するのは結構つらいぜい。カミやんも毎日こんな生活なのかにゃー」 思わずそんな独り言を放った直後、土御門はあるとんでもない可能性に気付いてしまう。 舞夏がおかしくなったのは上条当麻の部屋に行ってからだ。 (まさか…) そしてその上条当麻は関わった女性に対して高確率かつ平等にフラグを立てる旗男だ。 (そんな事が…) その上条当麻は日々食糧難に苦しんでいる。 (あるはずが…) そして舞夏は上条宅から帰還後に究極の味噌汁開発に明け暮れている。 これらの事実から推測される事は…。 「ふざけるなああああああああ!!!!!!!おのれ!!!上条当麻ああああああああ!!!!!!!!!」 ガタッ!!と凄まじい勢いでシスコン軍曹は立ち上がり野太い声で叫ぶ。 「外国人巫女様お嬢様妹巨乳でこ女子高生豊乳シスター爆乳エロスお姉さん堕天使エロメイド隠れ巨乳と散々フラグを立てておいてまだ足りぬか!!!!」 いつもの軽い口調は完全に吹っ飛んでいる。この男、マジである。 「今までは大目に見てきたが舞夏だけは許せん!!もう見過ごす事はできんっっ!!!!!!!」 そう宣言すると土御門はベランダではなく部屋の壁をぶち抜いて上条宅へと侵攻していくのであった 4 一端覧祭を控えいつも以上の喧騒が広がる学園都市の中でこの空間は静かだ。 ちょっとアルコールの匂いが鼻につくが、それでもどこか心地良さを感じる事ができる。 辺りは一面真っ白で清潔感そのものだった。 すれ違う人も落ち着いていて平穏な時間を過ごしているように見える。 海原光貴はそんな廊下を歩いていた。 つい今しがたショチトルという少女の見舞いを終えたところだった。 あれから毎日の日課になっているが、未だに口を利いてもらえない。 それでも最初の頃は転院した事も教えてもらえず、病室にすら入れてくれなかったのだから見舞いができているだけでも彼女との距離は確実に縮まっている。 「ようやく、向き合えてきたのでしょうかね」 海原は思わず頬を緩めてしまう。 自分は『組織』を抜け学園都市の暗部へと潜りこんだ。多くの命を奪い、自らの目的の為とあれば大切な人を傷つける事すら考えた程だ。 そんな闇に染まった自分にこんな穏やかな感情がまだ残っていたとは。 まだ少し痛む頭で海原はぼんやりとそんな事を考えていた。 「おや?」 病院を出て携帯電話の電源を入れるとディスプレイに見慣れた番号が表示される。 その番号をプッシュしようとした瞬間、 ヒュン!と空気を切り裂くような音と共に一人の少女が現れた。 「結標さん、トラウマは完全に克服されたのですか?」 「茶化さないで。これでも精神集中して慎重に演算してようやくできたんだから」 そう返答した結標の背中には低周波振動治療器はなかった。常に携帯してあった懐中電灯もない。 これはあの日、結標が『仲間』に誓った覚悟の証。 自身のトラウマがどうこうという問題ではない。自分の力で『仲間』を助ける。ただその一点。その一点が結標淡希を突き動かしている。 「それにしても、よくここにいるとわかりましたね」 「あなたの行動パターンくらいわかってるわよ」 結標はぶっきらぼうに答える。 「それはそれは」 海原は少し笑みを浮かべて、 「ところで用件は何でしょう?もしかして一端覧祭のデートのお誘いですか?」 「まだ平和ボケしてるんだったら、そのニヤけた顔にコルク抜きでもぶち込んであげようかしら?」 結標は不適な笑みを浮かべながら海原へ冷たい視線を送る。 懐中電灯を持たない今、結標の攻撃は予備動作なしで繰り出される事になる。その事を瞬時に理解した海原は降参とばかりに両手を上げる。 「仕事…ってほどじゃないんだけど、ちょっと協力して欲しい事があるのよ」 海原は表情を少し引き締め答える。 「先日の『残骸』の件ですか?」 結標は頷くと付いてこい、と言わんばかりに歩き出す。 「あなたは察しが良くて助かるわ。世界中に散らばっていた『残骸』が急に回収されたのは知っているわよね。それでちょっとばかり引っかかる事があるのよ」 「引っかかる事…ですか?」 海原は正面からテントの骨組みを持った男子高校生を避けながら結標に先を促す。 「私は以前、地上に落ちた『残骸』を回収してるけど、その時は一方通行に破壊されてるの。でもここにきて学園都市が急に『残骸』を回収し始めてるの」 「『残骸』は『外』の連中が血眼になって回収に飛んでいるはずですが…そもそも、それが『残骸』だと言う確証は?」 「ないわ。ただ、この件で人員不足の『アイテム』がわざわざ『外』まで出向いてる事を考えるとあながち嘘でもなさそうじゃない?」 「さっき世界中と仰りましたが、それが本当だとしたらそれなりの数の『残骸』が既に地上にあるという事になりますが…」 「いくつか地上に落下していたんでしょう。『外』の連中に回収されても問題ないとは思うのだけれど…データを失うのが嫌なのかしらね」 「しかし何で今なんでしょうね?貴女が『残骸』を回収したのは九月半ば。二ヶ月も経った今頃になって回収し始めるというのは…」 「それが引っかかってるのよ。『外』は今戦争直前で混乱しつつある。レベル5を二人も失った今の学園都市に寄り道をしている余裕があるとは思えないわ」 「しかし、それが寄り道ではなく近道だとしたら」 海原が質問するように返す。 結標は足を止め、天を仰ぎ、答える。 「もしかしたら私達にとっても近道になるかもしれないわね」 5 垣根帝督はとある高校の校門前に立っていた。 ミディアムヘアの金髪を靡かせ、校門前で佇む彼の姿は他校から殴り込みを仕掛けに行く不良のようにも見える。 当然、とある高校の生徒からの視線が集まるが、垣根はそんな事は気にしない。彼の目的は一つしかないからだ。 そんな彼に横合いから話しかけてくる人物が一人。 「こんな所で立って何をしているのですかー?」 垣根は声のした方向に視線を移すが何もない。 いや、いた。 自分の肘あたりに、訝しげな視線を向ける一人の幼女が。 「見ての通りここは高校ですよー?服装を見る限りあなたはここの生徒には見えませんが…?」 幼女にしては話し方が妙に大人びている。だが問題はそこではない。なぜ高校の敷地内に堂々と小学生と思しき幼女がいるのか。 しかしそこは紳士な垣根。警戒されないように優しい口調で言葉を返す。 「俺はここの生徒に用事があるんだよ。もし迷子ならここの職員を訪ねるといいよ」 「私は迷子なんかじゃありませんよー?と言うかここの先生です」 この小学生、中々面白い事を言うじゃねえか、と垣根は頭の中で感心する。しかし、こんな子供に構っていられるほど暇ではない。 「とりあえず職員室にでも行こうか」 垣根は幼女と共に学校敷地内に入ろうとするが幼女は断固阻止する。 「殴り込みはいけないのです!何か理由があるのなら先生が聞くのです!」 幼女は垣根の左足をガッチリとホールドしている。 まだ続けるのかこのガキ、と紳士な垣根が眉間に皺を寄せかけると、 「月詠先生。何をなさっているんです?」 今度は落ち着いた、大人の女性の声が聞こえた。声の主は教師を絵に描いたような黒縁眼鏡に整った髪、これと言って特徴のない顔といい教師の鑑みたいな女だった。 垣根はこの女がこの高校の教師であると確信すると、 「ここの高校の雲川芹亜という方に会いに来たんですが」 いきなり尋ねられた女教師は不審に思いながらも、雲川という生徒について考える。が、そんな生徒がいたという記憶はない。生憎だけど知らないわね、と答えようとした時、 「雲川ちゃんですか?だったらこの時間だと食堂にいるんじゃないですかー?」 また幼女が口を挟んできた。うんざりしながら幼女に視線を戻すと幼女は続ける。 「彼女はいつも食堂の椅子を繋げて寝ているのです。今ちょうど昼休みも終わったところですし、早く行かないと雲川ちゃん寝ちゃいますよ」 なんでそんな事まで知っているんだ、このガキ。という疑問を飲み込み垣根は少し考える。 様子を見るとあの女教師は雲川自体を知らないだろう。このガキの言ってる事も信用できないが、ここまで具体的に言い切るのなら知っている可能性もある。 もし違かったのなら職員室で尋ねればいいだけだ。何よりさっさとこの面倒臭い状況から抜け出したかった。 そう判断すると「ありがとう、お嬢さん」と幼女に微笑みかけ校舎に向かって歩いていく。 そんな少年の後ろ姿を呆然と眺める特徴のない女教師――親船素甘は隣にいる幼女教師――月詠小萌に視線を向け、 「あんなどこの馬の骨ともわからない少年を校舎に入れてしまってもいいんですか?それに今は黄泉川先生は休み、災誤先生は未だに療養中なのに…。何かあったら対処できませんよ?」 しかし幼女教師は平らな胸を力いっぱい張ってきっぱりと返答する。 「大丈夫なのです。あの子はそんなに悪い子には見えません」 一体何を根拠に?と親船はさっぱり理解ができずに首を傾げるが、きちんとした理由があった。 初対面なのに「え?こいつ教師なの?」と聞かれなかったという立派な理由が。 6 土御門元春は困惑していた。 上条当麻を抹消すべく壁をぶち抜きターミネーターの如く登場したはいいが、その眼前にいたのは長く艶のある黒髪を梳かしていた姫神秋沙だった。 姫神は本能で危険を察知したのか髪を梳かしていた櫛を魔法のステッキのように土御門に向けるが、当然何も起こるはずがない。彼女は魔術師ではないのだ。 ようやく侵入者がデルタフォースの金髪だと認識すると、櫛を構えていた右手を下ろし、 「びっくりした。どうしたの?」 姫神の問いかけにようやく我に返った土御門は左手を腰に当て白々しい笑みを作る。 「いやー…遂にロリの真理を発見してにゃー。それを一秒でも早くカミやんに伝えねばと思ったんだぜい」 何やら不審な事を口走り始めたロリコンサングラスに姫神は再び櫛を構える。 墓穴を掘った、とちょっとばかり後悔した土御門は別の話題を探す。上条がいないのは既に気付いていたが、そこで別の事に気付いた。 「そういえば食いしん坊シスターはどこに行ったんだにゃー?」 ついでに三毛猫もいない、文字通り姫神と土御門の二人しかいない部屋で姫神の淡々とした声が響く。 「小萌の所へ出かけて行った」 土御門が通う高校では今日から三日間は一端覧祭の準備日という事で授業は休みだ。学校では有志の生徒が登校して準備をしている。小萌はその監督者と言ったところだろうか。 当然、土御門のように通常の授業さえまともに受けていない生徒が休日に有志で準備を志願するはずがない。てっきり上条も同類で部屋で「うだー…」としているとばかり思っていたのだが。 「カミやんは?」 「ジュース。買いに行ってくるって」 ふむ。やはり同類だったようだ。まぁ黙って待っていれば直に帰ってくるという事だ。 「ところで姫神は何でカミやんの部屋にいるんだにゃー?」 姫神はクラスメイトの吹寄と仲が良い。当然、吹寄は準備組だろうし姫神もそこの一人であると思っていたのだが。 「大覇星祭の埋め合わせ。私はいい。と言ったのに彼がどうしても。と言うから」 姫神は至って平静を装って説明するが、彼女の手の中にある櫛は凄まじい速さで高速回転している。 この野郎、今日は巫女様ルートを進めるつもりか、と上条への殺意をより固めるヒットマン土御門。 だいたいの状況を把握した土御門は壁に大穴が開いた主なき部屋で標的を待つ事にした。 「………………………………………」 「………………………………………」 微妙な沈黙だ。 土御門元春には姫神秋沙に対して負い目がある。 それは大覇星祭での事。 とある魔術師との戦闘に巻き込まれた姫神は、その魔術師の手によって瀕死の重傷を負ってしまった。 しかも自分が相手に放ったハッタリが間接的な引き金になったと知って自分の失策を恥じた。それが自分の知らないところで起こった悲劇なので尚更腹が立った。 もちろん、当時の戦況を知る者であれば彼の判断を責める事などできるはずがない。 だが、プロの魔術師として魔術に何の関係もない一般人を巻き込んだ時点で自分を許す事などできるはずがなかった。 しかもイレギュラーだったとは言え、吹寄制理まで巻き込んでしまっていた。 本来であれば、きちんと筋を通して謝るべきなのだろうが彼の立場上謝るわけにもいかない。彼女達からすれば土御門はあの一件に関わっているはずがないのだから。 そのジレンマが土御門を葛藤させる。 「土御門君。」 姫神が唐突に口を開く。 土御門はまるで摘み食いがバレた子供のように素早く姫神に視線を向ける。 「なんか。いつもと雰囲気が違う」 女という生き物は怖い。こういう時は第六感が働くのだろうか、些細な変化でも敏感に察知してくる。 この能力ばかりは科学と魔術の暗部で立ち回っている土御門といえども会得できない特殊なものだ。だが、土御門とてプロのスパイ。核心までは掴ませない。 「気のせいにゃー。土御門さんにも真面目モードになる時があるんだぜい?」 「信じられない。君は死ぬ瞬間ですらヘラヘラしてそう」 これは一度誤解を解いておくべきか。と土御門は頭を抱えかけたがその時、 ピンポーン、と平凡なインターホンが鳴り響いた。 何だ何だ。来客か?と首を傾げる二人。ここは上条の部屋だし、自分の部屋に入るのにわざわざインターホンを鳴らすわけがない。 居留守を決め込む理由もないので、とりあえずドアを開ける。 そこにいたのは、姫神と同じく黒髪の少女。 しかし彼女の服装は制服ではなく完全な私服である。 デニムパンツを穿き、真ん中にレースの入った白のシャツの上にグレーのベストを羽織っている。これでレイピアでも持っていれば貴族に見える。 「あ、あれ…?ここって上条さんのお宅じゃ…それにその声、確かアビニョンで…。」 予想外の人物のお出迎えに戸惑う天草式少女。 この人誰?と訝しげな視線を送る元巫女様。 これは修羅場の予感だにゃー、とニヤけるエージェント。 上条の与り知らぬ所で奇妙な三人組が誕生した。 7 浜面仕上と滝壺理后は第二学区を歩いていた。 この第二学区には『警備員』と『風紀委員』の訓練所がある。 今は常時警戒態勢にある為か、建物の至る所から物騒な音が鳴り響いている。その騒音対策の為に張り巡らされている防音壁が何者かによる包囲網にも見えてしまう。 それだけこの第二学区は殺気立っていた。 なぜそんな物騒な所に無力な少年少女(片方はレベル4)がいるかと言うと、ある人物に会う為だ。 「お、浜面~。久しぶりじゃん」 「くそっ。何でこの女はいつもこんな軽いテンションなんだよ」 待ち合わせ場所には既にジャージ女―――黄泉川愛穂が立っていた。 「いきなり電話で話があるとか言って呼び出しておいて何じゃんよ?しかも彼女まで同伴させちゃって~。も、もしや結婚!?いや~浜面も遂に所帯持ちか~」 「けっ!?ち、違えよバカ!!」 浜面は、一人であさっての方向を向きながら息子の門出を祝う母親のような顔になっている黄泉川に向かって必死に否定の言葉を返すが聞いているかどうかは怪しい。 「何じゃんよ?私はまだ未婚だから婚姻届の書き方は知らないじゃんよ。とりあえず役所に行けば教えてもらえるんじゃん?」 「そうじゃなくて…。滝壺の寮の事だよ」 トボけるジャージ女の話を無視して浜面は無理矢理用件の本筋に入る。 「滝壺には一応、学校の寮の部屋が割り当てられてるんだろ?なのに何でお前はわざわざ俺の所に滝壺を預けたんだよ?」 滝壺理后は退院後、その稀少な能力を認められ霧ヶ丘女学院へ入学した。 もっとも、彼女はもう実質的に能力を使う事ができないのでその学校に通えるとは思えないのだが…。そのあたりはある人物の強い推薦があったとかないとか…。 ともかく、浜面の言い分としては寮があるのなら寮に入り、健全な高校生活を送るべきだ、という事だった。しかし。 「浜面のくせにまともな事言うじゃん。てゆうか変な物食べた?」 「ほらなっ!絶対そう返すと思ったんだ!人が折角更正しようと頑張り出した途端にこれだよ!!」 「まあまあ。確かに浜面の言う事も一理あるのはあるじゃん。でも…」 急に黄泉川は右手を口に当て言葉を止める。 「?」 浜面が首を傾げていると、黄泉川は口を開く。 「だってさ、浜面はやっとやりたい事が見つかったって言ってたじゃんよ?それはその子を自分の手で守る事なんじゃないの?」 「うっ」 「私としては気を遣ってあげたつもりじゃん。だってそうじゃん?常に一緒にいれば、どんな魔の手が来ようともすぐに浜面が助けられるじゃんよ」 「それは…」 「それにあの時の浜面は確かに守るべきモノを守ろうとする男の目をしてたじゃん。」 「……」 「それともあれは嘘だった?勢いで思わず口走っちゃって、今度は面倒臭くなったから他人様に宜しくお願いしますって感じ?」 「それは違う!」 「だったら今のままで問題ないじゃん」 返す言葉がない。 見事なまでに言い包められた交渉人・浜面仕上。そもそも交渉にすらなっていなかったが。 「それに…その子は絶対に一人にさせちゃ駄目じゃんよ…」 ボソッ。と、聞こえるか聞こえないかというつぶやき。 浜面は聞き取れなかったのか首を傾げるが、黄泉川はサッと顔を上げ、 「まあそういう事じゃん。相談なら逐一聞くじゃんよ。じゃあ私は射撃訓練があるから。じゃ~ね~」 そう言い残すとジャージ女は颯爽と去っていった。 「はまづら」 すると、これまで口を真一文字に閉じて二人のやりとりを見ていた滝壺がポツリと言った。 「あの女の人。あんな色のジャージなんか着てて恥ずかしくないの?」 浜面はツッこむべきかどうか一瞬迷ったが、華麗にスルーした。 彼はもうシリアスなのかギャグなのかわからない場の空気についていけなくなっていた。 8 垣根は食堂に繋がる廊下を歩いていた。校内の見取り図は知らないが、学校の食堂がどのような場所にあるかというのは大体の見当がつく。 途中、三毛猫を抱えた白い修道服の少女が「プリンプリンーーー!」と叫んでいた。はて、この学区には神学系の学校はあったか?などと考えていると食堂に着いた。 入り口には『一端覧祭直前特別企画!先着5名様に限り特製焼きプリン250円!』という立て看板がある。 気楽なもんだ。と、乾いた笑いを浮かべつつ食堂の中に入る。 食堂にはほとんど人がいなかった。学校が自由登校日だという事もあるのだろうが、昼のピークの時間を過ぎていたので生徒のほとんどは自分の教室に帰ったのだろう。 静かな食堂というのは、どこか裏路地の静寂にも似ている。 「あら、珍しいお客さんが来たみたいだけど」 その静寂を破る声。その声は小さくもなく大きくもない。しかし身を貫くようなしっかりとした声だった。 「随分と愉快な寝床じゃねえか」 「こう見えて結構な寝心地なんだけど。あなたもどう?」 冗談じゃねえ。とばかりに垣根は椅子に腰を下ろす。 「改めて、ようこそ未元物質(ダークマター)。こうして面と向かって話をするのは初めてだけど」 雲川は椅子を繋げたベッドから起き上がりながら言う。 「俺の名前を知らないわけじゃないだろ?できれば名前で呼んで欲しいな」 失礼。とばかりに笑みで返事をすると雲川も椅子に腰を下ろし垣根と正対する。 「色々と聞きたい事があるんだが。とりあえずテメェはどこまで知っている?」 「少なくともあなたよりは知らないと思うんだけど」 「すっ呆けやがって。テメェの『役割』くらい知ってるんだよ」 「そうカリカリしなくてもいいと思うんだけど。そうね、とりあえずここ最近の学園都市の動きでも話そうか」 「そんな世間話をする為にわざわざ来たわけじゃないんだけどな」 「話をするにも順序ってものがあるんだけど。それにあなたが眠っていた間の情報とかもあるけど?」 「そうかい」 垣根は背もたれに体重をかけ、さっさと話せとばかりに視線と顎を上げる。 「『未元物質』垣根帝督は死んだ。もちろん、表向きには…だけど」 垣根は動かない。そんな事には興味がないようだ。 「それによって学園都市の順位に変動が出た。第三位の『超電磁砲』が第二位に、第五位の『心理掌握』が第三位になったわけだけど」 「へー。あの雑魚が第二位ねえ。学園都市もヤキが回ったもんだな」 「一言に雑魚って言うけど、それはあなたの次元での話でしょ?普通に考えたら『超電磁砲』だって充分脅威だけど」 「人一人も殺せないような甘ちゃんなんか使い物にならねえだろ?」 「それはあなた達のような人種じゃないからだけど。それにあの子は学園都市にかなり協力してくれてると思うけど?」 「『妹達』か。一方通行に殺される為だけに生み出されたクローン体…。まったく、同情するぜ」 雲川は何かを言いかけたが、その言葉を飲み込み別の言葉を紡ぐ。 「それと例のローマ教徒との対立だけど、今はとりあえずは小休止ってところ。何でもあっちで色々トラブルがあったらしいけど」 「ふーん」 「まぁ…この辺はあなたにとってはどうでもいいってところだろうけど」 「道理で以前に比べて街中が騒がしくなってないわけだ。この学校に至っては呑気に学園祭の準備だもんな。危機感ってのは感じないのか?」 垣根は呆れたような声で話すが、雲川は構わず話を続ける。 「とりあえずはこれが学園都市の『表』の動き。次に『裏』だけど、今活動してるのは『グループ』と『アイテム』の2つ。あなたのいた『スクール』は再編中らしいけど」 「…。『ピンセット』はどうなった?」 「『グループ』が回収した。確か回収したのは土御門とか言う男だったと思うけど」 一方通行ではなかったのか、と垣根は思った。 「(なるほど、コソ泥がいたわけか。誰だか知らんが後で回収しとくか)」 「そういえばあなたは『ピンセット』の情報は見た?」 「あぁ。大した情報は無かったけどな。一つを除いてな」 雲川はその一つが何なのかを察し、こう釘を刺した。 「その件に関しては本当に知らないぞ。私だって普通の女子高生なんだ。いつも闇にいるお前らのように汚れていないんだけど」 よく言うぜ。と垣根は鼻で笑い、 「じゃあ本題に入るか」 不適な笑いを浮かべる少年と少女は更なる闇の世界へと潜り込んでいく。 9 「学園都市はコソコソと何をやっている?」 垣根は最も聞きたい事をストレートに聞いた。 「新たな『戦力』の増強だけど」 雲川もストレートに答える。 「『戦力』?何だ?遂に本格的に戦争でも始める気か?」 「いずれは…だけど。今は学園都市も『外』も内部状況が良くない。事実上、停戦状態だけど」 「まぁ学園都市はわかるが…何だ、『外』もゴタゴタやってるのか?」 「さっきもちょっと触れたけどイギリスでクーデターがあったらしい。ローマも教皇の謎の負傷で大混乱。どの陣営も敵地を攻め込めるような状況じゃないわけだけど」 「どこにでも反乱分子ってのはいるんだな」 垣根は口笛を吹きながら過去の自分を思い出し、笑う。 「だがそれだけじゃない。ロシアが不穏な動きを見せているみたいなんだけど」 「ロシア?」 「ロシアのある集団が『原石』と『残骸』を回収し始めたんだけど。」 「『原石』ねえ…。『残骸』はまだわかるが、何だってそんな特異体なんか集めてんだ?コレクションにでもする気か?」 「『原石』がこの戦争の行方を大きく変える…私はそう思っているんだけど?」 「仮にそうだとして、こっちには最高の『原石』がいるんだろ?二つか三つ持っていかれたくらいでどうにかなるもんでもないだろ」 雲川は背筋を伸ばし一拍置いてから答える。 「確かにここには削板軍覇がいる。即戦力として戦える力は充分にあると思うけど」 雲川はさらに一拍置いて、 「その削板が何者かによってやられている。殺されない程度にだけど。しかもアレイスターに『原石』への警告までしたもんだ」 「そいつはまた面白ぇ野郎だな」 垣根は感心したように言う。 「これが何を意味するかはわかるでしょ?『原石』を戦争に使わせまいとする連中もいるわけだけど」 「アレイスターの野郎が使わずにいられるわけがねえな」 垣根はあっけらかんと断言する。 「それに『原石』は本当に未知の存在でもあるわけだけど。削板を見ればわかるが、とにかく能力そのものが稀少で特異だ。出力すらも定かではない」 「そんな危険物を能力開発の素人集団に取られるわけにはいかねえ…そういう事か」 雲川は頬杖をつくと、 「もし、半覚醒で暴発した場合どれほどの暴走になるかわからない。仮に覚醒したとしてどれほどの能力が発現するかもわからない。学園都市にとってマイナスはあってもプラスはないわけだけど」 「だから全ての『原石』を学園都市に集めて、あわよくば新たなレベル5を作り出すって事だな」 「そこまで具体的な事はわからない。まぁ、あなたの推測が一番無難だとは思うけど。もっとも、そうなれば警告を無視するわけだから奴も黙ってないだろうけど」 「で、その回収状況はどうなのよ?」 「8割方は回収できてるみたいだけど。きちんとした数もわからないからきっちり全部ってわけにはいかないだろうがな」 雲川は右目にかかった前髪をカチューシャで掻き上げて、 「例え一つでも向こうに回収されればそれが命取りになる可能性がある。もし、それが『当たり』なら一方通行クラスの能力者が敵に回る可能性があるわけだけど」 「そうなったら『上』は大慌てだろうなぁ」 垣根は人事のように言うが、一方通行の本当の強さは自分が一番わかっている。義手をつけた右手がうずいたのがわかった。 「だから『上』はあなたを生かしたと思うんだけど」 「別に学園都市の為に戦う気なんかねえよ。俺は自分の敵以外は傷つけたくないタチなんでね」 垣根はそう言うと、聞きたい事は聞き終わったのか立ち上がるとそのまま踵を返した。 雲川はその背中に一言だけ告げる。 「そうそう、削板にもあなたのように『役割』があるわけなんだけど」 「あん?」 「まぁ、直にわかるさ」 雲川は薄く、薄く笑うと再び椅子を繋げて寝転んでしまう。 垣根は意味がわからなかったが、考えてもわからないとわかると食堂を去っていった。 「本当に、この学校はいろんな刺激に溢れてるな」 雲川は笑う。天使とも悪魔とも無邪気とも妖艶とも取れるような笑顔で。 行間 とあるアパートメントに一通の手紙が届いた。 差出人はとある里親の友人だった。 まずその手紙を見たボンヌドダームの女は我が目を疑った。そしてすぐさま同居人の青年に手紙を渡す。 手紙の内容は里親が何者かに殺害された事。そしてその里親の子供が何者かに連れ去られたという事。その何者かの目撃情報として機械の装甲を身に纏った集団がいた事。 青年は激昂した。 彼は学園都市に牽制の意味を込めた襲撃を行っている。それは『原石』の保護なら構わないが、彼らの生活を脅かす事をするのなら容赦なく叩き伏せるという事だった。 そして学園都市はその牽制を無視した。これは回収や保護といったものではない。 青年はあの少女に自分の手で幸福を手に入れてくれ、と言った。 そして少女はその幸福を手に入れるべく、あの里親と共に新たな人生を歩むはずだった。 青年の頭にアパートメントを出て行く時の少女の幸せそうな顔が浮かび上がる。 しかしその幸福はあっさりと奪われようとしている。いや、もう奪われているのかもしれない。 青年の眼がある一つの『モノ』に変わろうとしている。 もはや酌量の余地は無かった。 警告はした。その上で学園都市が『原石』を使い潰す覚悟があるのなら、彼らの自由を奪い取るというのなら、青年が取るべき行動は一つしかない。 青年の見た目に変化はない。しかし彼の周りにはこの世にあらざる空気が漂っている。何にも形容できないオーラがある。 「行ってくる」 青年は一言だけ告げるとアパートメントから出て行った。 ボンヌドダームの女は引き止める事はしなかった。いや、指一本動かす事すらできなかった。 世界中で一番彼の事を理解しているであろう彼女でさえ、今の青年の雰囲気は異常だった。 学園都市は開けてはならないパンドラの箱を開けてしまった。もう引き返す事はできない。 ボンヌドダームの女はかつてない戦慄を感じながら一つだけ、確信にも似た事を考えていた。 学園都市はこの世界から跡形もなく消滅する―――と。
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸なHappy days 元彼代打 「ふふふ、残り半月を二千円で過ごすことになるとは。さすがの上条さんも乾いた笑いしか出ないのであります」 太陽があっても寒さを感じる日中、銀行から出てきたゾンビもとい上条当麻は例のごとく不幸により金欠であった。 「……いろいろあった事件が『例のごとく』でまとめられた気がする」 「あ、いたいた」 「どうインデックスに伝えれば生還できるかねぇ。あれ、恐怖をまき散らす食欲魔神の姿が目に浮かぶよ?」 「ちょうどよかった、アンタを探し……」 「しかしこれを打ち消すことはできないのです。なぜならこれは幻想ではなく未来に起こる現実だからだー」 「……って相変わらずのスルーか!!ふっざけんなあああ!!!」 上条は例のごとく右手で電撃を打ち消す。 「おーい御坂、お前も『例のごとく』扱いだぞ」 「何のことだ!!だいたいそっちがいつもシカトしてるんでしょうが!!」 「いや、テンプレは必要かなと思案しまして」 「テンプレはいいんかい!」 そんな『いつも』のやりとりに、『いつも』じゃない二つの影が近づく。 「あ、その人ですか?」 「あぁ、借り物競走の時の人ですね」 その発言に対し上条が声を発する前に、御坂美琴はとんでもないことを言ってのけた。 「そう、コイツが私の<元彼>」 上条の時が止まった。 「どもー柵川中学の佐天涙子です」 「同じく初春飾利です。御坂さんとは仲良くさせてもらってます」 「あーこれはご丁寧に、上条当麻っていいます。……ちょっと来い御坂」 佐天たちから顔をそむけ、ひそひそ話を始める二人。余談だが、この時の距離の近さを美琴が気付いたのは夜中の十一時。大規模な漏電をしてしまい、寮監に首を絞められることになる。 「どういうことだ?」 「えーと、ついつい見栄を張っちゃって」 「恋愛経験豊富だと嘘をついたと」 「お願い、元彼の振りをして」 「はぁ、いいかい御坂君『嘘は泥棒の始まり』と言ってね「給料も出すから」そうやってお金で解決しようとするの「二千円」もいただけない。金を出すから共犯者に「五千円」なってくれと頼むっていうのはおかしいでしょう。上条さんは正直に話した方が「五万円」乗った」 背に腹は代えられないのだ。 「御坂の元彼です。こいつと付き合うのは大変でした」 「(何だとコラ!!)これでホントだって分かってもらえたかしら」 佐天と初春は視線を交えた後、二人に向き合う。 「いやいや、二人で嘘を言っている可能性もありますし」 「忘れてませんよね、嘘だったらなんでもお願い聞いてもらいますからね」 再びアイコンタクトをとる二人。 (*1) 佐天は輝く笑みを浮かべながら考える。 (御坂さんを一日好き放題させてもらおう。着せ替え人形にしたり、昔の事や「アイツ」の事を根掘り葉掘り聞いてやろう。さらに電撃使いを利用して電気代節約としゃれこもうかぁ) 初春は聖母の微笑みで思う (いちご焼きそばにメロン丼、小豆シチューに栗バーガー、そして特大ジャンボパフェ。よだれが止まりませんねぇ) 「ということで、そこのファミレスでお話ししましょう」 顔が引きつった二人を連れ、笑顔の二人が先を行く。 これより、「生活」「娯楽」「面子」「甘味」を賭けた戦いが始まる。 そして「アイコンタクト」に対する「ひそひそ話」。上条たちはあきらかに劣勢であった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸なHappy days
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある両家の元旦物語 後編 御坂美琴は温かい水で顔を洗っては、冷たいタオルで目を冷やす、を繰り返している。 泣きすぎて目が腫れぼったくなってしまったため、血行を良くする応急処置だ。 当然スッピン状態に戻っている。 「美琴ちゃん、どれだけ泣いたのよこれ…絞ったら水したたりそう」 「うぅ・・・」 詩菜に借りたミニタオルは見事にぐしょぐしょだ。 「まあでもそれだけ泣いて、アタックも成功したし。完全に浄化されたわね♪」 「う、うるさい!」 未だに信じられない。 …いや、あの男は想像以上の肩透かしをしてくる。 油断はできない…けど。 (この部屋でたら、どんな顔したらいいの…アイツの前でどうしたら…!) とりあえず考えないようにして、バシャバシャ顔を洗い続ける。 他の4人は部屋に戻っている。 案内係が昼食をセットしてくれている。『懐石おせち』というものらしい。 上条がもの珍しげに眺めていると、御坂旅掛が近寄ってきた。 「当麻くん、ちょっといいかな?」 「は、はい」 こ、殺される? 上条がまず思ったのはソレである。 娘があれだけ泣かされてキスまでされて、心安らかなはずがあろうか、いや、ありえない。 自分の両親をちらっと見たが危機感はないようだ。 (とりあえず、大丈夫なの、か…?) 促されて、またベランダから外に出る。 先手必勝。 「す、すみません。娘さんを泣かせてしまいまして。それに…」 「ああ、それはいい。俺は子供の世界には首を突っ込まないよ。正しいと思ったことをやればいいさ」 旅掛は事もなげに言う。 「ただ、君に聞きたいことがあってね。妻たちがいない今しか」 言うやいなや、旅掛は上条の両肩をガシッと掴む。上条は流石にビビる。 (な、なんだーー?) 「こうすれば、君の表情は読み取れるからね」 そう言って旅掛は、ゆっくりと上条に問う。 「私の娘は美琴ただ一人だ。…決して双子じゃないんだが、君はどう思う?」 言葉が浸透するのにコンマ何秒かかかったが、意味を理解すると。 (シスターズ…!) 思い浮かべてしまった。もとより、上条は感情で動く人間だ。表情を作るような器用な事はできない。 「ビンゴ、か。美琴は知っているのかな?」 上条は目をふせる。どう答えればいい? 「ふ、雄弁だな。そうか、あの子も知っているのか…分かった、ありがとう。」 上条が一言も喋れず固まっている。 旅掛は手を離した。 「いつか話してくれる事を願うよ。じゃあ戻ろうか…ああ、あの子には私が勘付いた事は内緒、な」 旅掛は戻りつつ、怒りをある男に向ける。 (許さんぞアレイスター!やはり娘を巻き込んでいたか!) 上条は呆然としていた。 一言も喋ってないのに、全部吸い上げられた。 あんな底知れぬ人が将来、義理の父親になる可能性があるというのか? (あ、戻ってきたか) 上条が戻ろうとすると、化粧を直し終えたのか、美琴がベランダから庭へ降りてこようとしていた。 すれ違いに、旅掛に一言かけられ、頷いている。 まっすぐ上条に向かって歩いてきた。 目の腫れぼったさは完全回復といかなかったようだが、そこはアイシャドウとアイラインで目立たなくしている。 可愛らしさは完全復活していた。やや頬が赤いが、この寒さでは普通かもしれない。 美琴は、ある決意を秘めていた。 ―――場面は先程の化粧室に戻る。 「さて、美琴ちゃん」 美鈴は美琴の化粧を手伝いながら、やさしく話しかける。 「な、なに?」 「当麻くんだけどね、さっきこっち戻ってくるとき、ベンチに座ってるの見たんだけど」 「うん」 「あの子、冷静になろうと努めてるように見えたのよね。」 「?」 美琴は美鈴の言いたいことが分からない。 「当麻くんってさ、相当ヤバイ橋わたってきてるんじゃない?」 「うん、しょっちゅう入院するようなケガしてるみたい…」 「でしょうね。だからいざという時、誤った判断をしないように、感情のコントロールをする術が身についてるんでしょう」 美琴は気づいた。 「え、じゃ、じゃあアイツは、冷静に…つまり考え直してる…っていうの!?」 「それは行き過ぎかな。逆に考えてごらんなさい。当麻くんが色々話してくれたんじゃない? その中に、美琴ちゃんの求愛へ応えることに対して引っかかりがあるのかもね」 …あの子か。 『ん、心配ないよ。とうまは必ず帰ってきてくれるもの』 あの子と初めて会った日、そんなこと言ってたっけ。自分の心が衝撃を受けたのを、覚えている。 私を受け入れれば、あの子はどうなる…? 「なんか思い当たることがあったかな?何にせよ…」 美鈴は一気に声のトーンをあげる。 「いい?美琴ちゃん。恋愛は冷静になってやるもんじゃない!一気に燃え上がらせないといけないの! この数時間が勝負よ?きっちり踏み込んで、あの子をしっかりキャッチするの! 大丈夫、扉は開いたんだから!後のことを考えず、彼に飛び込みなさいな。」 美琴は飲まれたような表情をしていたが、やがてコクンと頷いた。 ―――あの子の事はさておき、まず自分。 美琴は一気に上条の目の前まで歩を進め…そのまま上条の首に両手を巻きつけた! あまりの至近距離に上条はたじろぎつつ、赤くなる。 「気づいてた?私、アンタのこと、苗字でも名前でも呼んだことなかった、って」 全ては、この時のため――― 「…私、当麻のこと大好きっ!」 そのままつま先立ちでしがみつき、口許を上条の耳に寄せる。 「私のこと、ゆっくりでいいから、好きになって…お願い」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある両家の元旦物語
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある恋人の日常風景 第二章 それは偶然か必然か ~ 十二月一日 「あー。今日も疲れた疲れたぜ疲れましたよ三段活用? 上条さんはもう心身ともにへとへとです。 インデックスは小萌先生のとこで焼肉パーティーらしいし、今日のところは久しぶりにファミレスで 優雅に晩飯でも食いますか」 放課後、上条は上機嫌で雑踏の中を歩いていた。いや、実際には上機嫌などではなく、ここ数日 の不幸続きで逆にハイになっているといったところか。 彼の不幸?は今日も例外ではなく、六限目が体育だったのだが、諸事情により授業に遅刻した上 条は罰として校庭を約四キロ分ぐるぐると走らされ、帰り際に小萌先生から『上条ちゃんはバカなの で課題をプレゼントです。期限は明日までに必ずですよー』と例の如く大量の宿題を渡され、学校の 正門前では車に轢かれそうになり、さらには美琴とデートの約束をしていたのだがドタキャンされて しまった。 ちなみにデートのドタキャンは、カエル顔の医者と御坂妹から呼び出しを喰らったとのことで、心配 になった上条は俺も一緒に付いて行くと言ったのだが、『私と妹の問題だからアンタがいちゃダメな のよ』とのことで断られてしまった。ただ、十九時に病院へ来るようにとのご命令は下りている。 という訳で、それまで何もすることがない上条は、久しぶりにちゃんとしたご飯でも食べようかななど と考えた結果、ファミレスでも寄って腹ごしらえと時間潰しでもしようということに決めたのであるが……。 「んー? あの変なツインテールは白井か?」 前方にふらふらと歩く見知った少女の存在を認めた。 「なにやってんだあいつ。ぼーっとしてるっぽいけど」 * (はぁ…。一体どうしてしまったというのでしょう。訳が解りませんの……) 白井黒子は、自身の胸中を支配しつつある莫大な感情に戸惑いを隠せずにいた。 白井は今、学生で多くあふれる放課後の第七学区を一人で歩いている。ただ、他の多くの学生た ちとは違い、彼女はここで遊んでいる訳ではない。風紀委員として巡回しているのだ。白井は人一倍 の正義感と、決して悪を許さないという強く堅い意思を持つ人間である。だからこそ、彼女は『風紀委 員』であるし、どんなに危険で大きな悪に対しても、その幼さの残る小さな体で立ち向かう。そんな揺 るぎない強く堅い意思は、彼女にとって憧れの存在となるお姉様――白井のルームメイトであり、学 園都市の頂点・超能力者(レベル5)の第三位である『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴を想い慕う 気持ちも変わらない……はずであった。 白井は今、学生で多くあふれる放課後の第七学区を一人で歩いている。風紀委員として巡回して いるのだ。しかし、彼女は周囲の光景をはっきりと認識していない。なぜなら、白井は今かつてない ほどの莫大な“何か”という感情に戸惑い、悩んでいるからだ。最近見た映画やドラマなど、いろいろ な事を考えても、目を凝らして周囲を見回してみても、気付いた時にはその“何か”について考え悩ん でしまっているのである。 (それもこれもすべてあの殿方のせいですの。ええ、絶対そうですの) 白井が今、ぐるぐると同じ思考を繰り返しているのには大きな訳がある。彼女が想い慕うお姉様、 つまり御坂美琴に、上条当麻という彼氏(こいびと)ができてしまったからだ。そして、その事実を 知ったとき、自分の胸の奥底から“何か”という感情が溢れ出したからだ。 美琴と上条が付き合っていることを本人たちは公表していない。黒子は先の事情により知ってしま っているが、それ以外に“事実”を知るものはいない。しかし、常盤台中学の校内では既に様々な噂 が飛び交っていて、美琴を祝福する者や妬む者も存在する。今の白井が“どちらの立場なのか”と 問われれば、間違いなく祝福する者ではないと断言できる。嫉妬しているのだ。しかし、その嫉妬と は一体“何に対して嫉妬”なのだろうか。 なぜ自分がそんなくだらないことを繰り返し考えているのかは解らない。しかし、頭の中では美琴 と上条のことばかり考えてしまう。本当に、そんなことばかり考えて歩いていた。周囲の喧騒など耳 に入らない。周囲の風景など目に入らない。だからだろう、目の前に地下街の入口があることにも 気づかず、白井はそのまま足を踏み出してしまった。 「ッ――!」 一瞬の出来事だった。足元にあるべき地面が“突然無くなった”。 いや、違う。白井は地下街の入口で階段を踏み外したのだ。 地下街というものは意外と深いもので、万が一転倒してしまった場合、ビル二階分もの階段を一 気に転げ落ちるような場所だって存在するのだ。下手をすれば骨折どころでは済まない。人間とは とても弱い生き物である。打ち所が悪ければ、たった1メートルの高さから落下しただけでも簡単に 命を失うのだ。 白井の能力は大能力者(レベル4)の『空間移動(テレポート)』である。空間移動では、三次元上、 つまり普段我々が認識している“この空間”に存在するものを、そのまま目的の場所へ投げるように 飛ばすのではなく、座標を一一次元上の埋論値に置き換えて空間を再把握・計算し、物体が今現在 ある座標から指定した座標へ“転送する”のである。三次元上からは一旦“消滅”させ、移動先の空 間を押しのけて“出現”するような格好になるのだ。 例えば鋼鉄の棒をまっすぐ立て、そこへ薄い紙切れを転送したとする。その棒のうち紙を転送され た場所は、転送したもの・されたものの強度に関係なく、その転送した紙の分だけ上下左右に押しの けられてしまう。もし棒の平面積より紙の平面積が広ければ、柱は完全に分割・切断されてしまうだ ろう。壁や土の中に物体を転送して、埋め込んでしまうことだって可能だ。白井が被疑者確保や護身 用として良く使う『金属の矢』もこれの応用なのである。 しかし、一見攻撃性が高くまた移動便利に見える白井の能力だが、ご存知の通り重大な欠点が、 大きく言って二つある。 一つとして、自らの体表面に触れているか、着衣やアクセサリーなどの体表面から極めて近い距 離、つまり能力の有効範囲内にあるもの以外は移動できないのだ。その為、遠くにあるものを移動 させる――例えば飲み物や雑誌などを、置いてある場所から自らの手元に転送させる、といった便 利な使い方は残念ながら出来ない。 そしてもう一つの欠点が、非常に複雑な一一次元上の埋論値に置き換えなければ空間把握・座 標計算を行えないため、正確な移動や転送のためには高い集中力と極めて高度な演算能力が求 められる。能力を発動する際に突然の衝撃などにより集中力が途切れてしまうと、正確な座標計算 が出来なくなり、能力が無効化(キャンセル)されたり転送を失敗してしまう。 つまり、現在の状況下では、白井は自身の能力を使用して安全な場所へ自身を転送することも、 衝撃緩和のためにクッションとなりうる物体を下に準備することもできない。自身の能力など、何の 役にも立たないのだ。重力に逆らうことも、危険を回避することもできない。 そして―――― 「…ぇ?」 白井は、階段を転げ落ちることはなかった。 能力が使えたのではない。誰かが白井の右腕を掴んだのだ。 「おい、大丈夫か!? お前何やってんだよ、危うく大ケガするところだったぞ」 「……か、上条さん。すみませんの、少し考え事をしていたもので。おかげで助かりましたわ」 「ったく、気をつけろよな。まぁ、ケガしなくて何よりだ。お前いつも一人で突っ走ってそうだし、これ以 上ケガされちゃ困るしな。つーか考え事? 悩みでもあるなら、この上条さんが何でもお聞き致しま すよ」 上条はそう言うが、白井の悩み事の原因がまさか自分と美琴にあるなんて思っていないだろう。 実際、上条は「風紀委員での仕事が大変なんだろうな」程度にしか考えていない。確かに白井以外 の人間からしたら、そちらのほうが重要なのだろうし。 「ご心配いただいて光栄ですわ。ただ、せっかくですが考え事のほうは大丈夫ですの。風紀委員の 支部でもうすぐ大掃除があるのですが、片付けなければならない書類が多いもので、今から頭が痛 くなっていただけですから」 白井は上条の胸元にぶら下がる、どこかで見たようなオープンハートのネックレスに気付いた。 彼女の心の中の“何か”傷む。それが“何なのか”、そして何故痛むのかはわからない。 「あら? 随分と可愛らしいネックレスされてますのね」 「あ、ああ。……男がピンクのハートってやっぱ変か?」 「別に、趣味は人それぞれですわよ。あと、せっかく助けて頂いたのに申し訳ないですが、今わたくし とても忙しいもので……。お礼は後日必ず致しますの」 忙しいなんていうのは嘘だ。白井は今暇であり、だからこそ支部に詰めずに巡回をしているのだ。 ではなぜ忙しいなんて言ったか? それは、なぜか上条の前から早く立ち去りたくなったのだ。しか し、それがなぜかはわからない。 「お礼? 別にいらねーよ。お礼してもらうために助けた訳じゃねえしさ。お前がケガしないで済んだ んだから、それだけで十分」 「あなた、本当に無条件で人を助けるんですのね……。ですが、お礼はわたくしが勝手にさせて頂き ますの。……それでは」 「ああ、気をつけろよ」 歩き始めた白井は、「あ、それと……」と何かを思い出したように立ち止まると、上条の方へと振り 返り、 「わたくしのお姉様にちょっかい出されましたら、例え命の恩人であろうと決して許しませんので、 そのつもりで」 にこやかな笑顔で上条にそう告げ、再び歩き出した。 その笑顔は、皮肉や当てつけではなく、“彼女なりの強がり”であった。 * 上条はかかりつけと言っても差し支えないほどまでに来なれた病院の前にいた。といっても彼の 体に異常はないし、入院患者の見舞いに来た訳ではない。そもそも時間は既に十九時であって、 本来ならば部外者は出入りできない時間だ。ではなぜここにいるかというと、この病院に入院して (住んで)いるとある少女に会いに来るようにと、美琴から呼ばれていたからだ。 妹達(シスターズ)――御坂美琴の軍用量産型体細胞クローンのうち、上条から御坂妹と呼ばれ ている検体番号(シリアルナンバー)一〇〇三二号を含む数名の“ミサカ”は、かつての絶対能力進 化(レベル6シフト)計画の中止後にこの病院へ保護された。ここで彼女たちはそれぞれが“ひとりの 人間として”、制限があるとはいえ普通に(と言えるかは別だが)生活できるようになったのだ。 「どっから入りゃいいんだ? つーかこんな時間に一体何なんだ??」 上条は病院の前で立ち尽くしていた。正面玄関はすでに閉まっていて、どこから入ればいいのか わからない。まさか救急入口から入る訳にはいかんだろう。美琴にメールしてみようかと思ったが、 院内では携帯の電源を切っているだろうから意味ないだろうと判断した結果、こうして途方に暮れ てしまっている。 恐らく帰宅するところであろう職員が、上条を怪訝な表情で見ている。はっきり言って、こんな時間 にこんな場所をうろつく男は不審者以外の何者でもない。そして、その職員と思わしき男性が上条 に近づく。 「あの、どうなさいました? 何かご用でしょうか。面会時間は十七時までですが」 「い、いや、別にあやしい者では」 その返答はおもいっきり不審さをアピールするようなものである。どう返答すればよいかわからな かった上条はついうろたえ、職員が彼を不審者として通報しようとする。そこに、突然第三者からの 声がかかった。 「どうしたんだい?」 「せ、先生! この少年がうろついていたもので」 「ああ。いいんだよ? 彼は僕の知り合いだからね?」 カエルのような顔をした医者が誤解を解く。 「はー助かった……。先生、ありがとうございます。いや、一体どこから入ればいいのかと……」 「ああ、それはすまないことをしたね? 彼女、入り方を君に伝えていなかったんだね?」 カエル顔の医者はそう言うと、上条を職員通用口へと案内した。そして、白衣の胸ポケットからID カードを取り出すと、 「君のIDは登録してあるからね? これ、上条クンのIDカードだ。いつでも好きな時に入っていいよ?」 「……、はい??」 カエル顔は、さも当然とでも言うように、 「君はとても重要な関係者だよ? 自由に出入りできるのは当たり前の事じゃないかい?」 「……あの、先生。なぜこのわたくし上条当麻がとても重要な関係者なんでせう?」 「とても重要な関係者だからに決まっているからだね?」 それは答えになってない、という言葉は飲み込んでおくとして、なぜか上条は自分の行く先が不安 でたまらないのであった。 結局、カエル顔の先生(美琴曰くリアルゲコ太)に案内されるがまま病院内へと足を踏み入れた上条 だったが、先生は医局へ戻るとのことで、一人で御坂妹の“部屋”へと向かうことになった。 臨床研究エリア――この病院にはそう呼ばれる区画がある。位置的に関係者以外が訪れることは ないと言ってもいいほど静まったエリアで、その一部では同じ身体の少女たちが一〇人ほど生活して おり、事実上そこは少女たちのための場所になっている。 その臨床研究エリアへと入ってすぐ、上条の目になにやら奇妙な光景が飛び込んできた。そこには 色違いのパステルカラーで無地の、ブラウスタイプのパジャマを着た四人の少女と、常盤台中学の冬 服を着た一人の少女が、“姉妹ゲンカをしていた”。 「またコソコソと汚い真似をしていたのですね! とミサカ一〇〇三二号はコイツを非難します!」 サックスのパジャマを着た、少年から唯一“御坂妹”と呼ばれる少女がそう声を張り上げると、 「ちょっとあんた! なんで私より“大きいのよ”!」 ベージュのブレザーを着た、彼女たちのお姉様である御坂美琴が怒り、 「み、ミサカは自らに迫る危機を――――ッ!」 ピンクのパジャマを着た、いま四人から取り囲まれている一九〇九〇号は、 「逃がしません! とミサカ一三五七七号は実力行使します」 オレンジのパジャマを着た少女に“上半身を脱がされ”、 「やはり明らかに大きいです、とミサカ一〇〇三九号は報告します!」 パープルのパジャマを着た少女に“胸を後ろから揉むように鷲掴みにされた”。 そして、上条にとって不幸なことに、 「い、いや、見ないで下さい、とミサカは……」 人一倍恥ずかしがりな一九〇九〇号が、上条を見つけてしまった。 * ここで状況を説明しておこう。 上条当麻と呼ばれるツンツン頭の高校生はいま、一九〇九〇号を除く四人の少女からフルボッコ にされ、床にへたり込んでいる。 一般的に、女性はパジャマの下にはブラジャーをつけない。これは寝る時に圧迫感があったり、ワ イヤー入りのブラの場合これが刺さったりして痛いからだ。だからこそ、パジャマ姿の彼女たちはいま ブラをつけていないし、もしそのブラウスタイプのパジャマの前ボタンを全部開放させたらどうなるかは わかるであろう。 つまり上条当麻は、いま顔を赤く染め涙目で自分の身体をぎゅっと抱きしめるようにしている一九〇 九〇号の胸をばっちりと見てしまったのだ。一応上条を擁護すると、胸の大きさについて揉めた少女 たちが実力行使した際、偶然上条が来てしまい見えてしまった、ということで、決して上条がケダモノ になった訳ではない。 しかし、見てしまったという事実は変らないため、美琴と三人の妹達から鉄拳制裁を喰らった訳で、 上条によると「ふ、不幸、だ……」とのことである。 妹達――それは“造られた心”を持った“造られた実験動物”であった。しかし、とある事件での とある少年の行動や言動がきっかけとなって、“自らの心”を持った“一人の少女”へと少しずつ 変っていった。 あれから三ヶ月以上が経ち、彼女たちはかなりの個性が出始めている。彼女たちが着ているパジ ャマの色もその表れだ。性格・趣味・趣向など、それぞれがそれぞれの“人間”へと成長を遂げている。 多くの妹達は感情や表情が多彩になり、自然な笑顔も見せるようになった。一九〇九〇号の恥ずか しがり屋という“個性”、御坂妹の表情が相変わらず乏しめという“個性”。それらは決して造られたも のではない、彼女たちの自然なものなのだ。 閑話休題。 上条はいま四人の同じ顔をした少女から睨まれている。理由は先の通りだ。 「あんた! ナニ人の許可もなく勝手に妹の胸見てんのよ!」 「いくらミサカがコイツの愛玩奴隷だからといって、これは許せません。とミサカはこの浮気男を睨み つけます」 「今の一〇〇三二号の奴隷宣言は聞き逃せません! と、ミサカは初めて会う当麻様に心奪われそ うになるのを我慢しながら二人を交互に睨みつけます」 「また一九〇九〇号は抜け駆けしようとしてますね? とミサカ一〇〇三九号は――」 「だから不可抗力だあああ!」 矢継ぎ早に飛び交う同じ顔の少女たちの言葉。 そして弁明する上条。 どういうわけか美琴と妹達は口調のみならず声色まで違うので、一人だけ別の声の美琴は聞き分 けがつくし、首にかかるネックレスでも見分けはつく。また、御坂妹は他の妹達より表情が乏しめ(穏 やかとも言う)であり、これまた首にかかるネックレスで見分けがつく。しかし、小っこいのを除いた他 の妹達に会うのは今回が初めてであり、恥ずかしがり屋で口調がごにょごにょした一九〇九〇号は すぐに掴めたが、後の二人はまったく見分けがつかない。 とりあえず今回はパジャマの色(一人は制服だが)で見分けることにした上条は、自らに怒りをぶつ ける“妹達に”、こう声をかけてしまった。 「そ、そうだ、お前ら、そのパジャマ似合ってるじゃねえか」 少女たちの怒りの声が止んだ。(お姉様を除く) そして、唯一隅で黙って顔を赤くしていた一九〇九〇号が、 「あ、あの、可愛い……、ですか? と、ミサカは不安になりつつ聞いてみます」 と上条に問いかけ、 「え? ああ、可愛いと思うぞ」 と上条が上条らしからぬ答えを返したことにより、 「か、可愛いと言ってもらえました、とミサカの胸は幸せでいっぱいになってしまいます」 と彼女は喜んでいたが、 「「「「……。」」」」 無言の怒りのような重圧が、ひしひしと上条に伝わってくる。 「あんたは……、」 「は、はい?」 「そんなに恥らう妹が好きかこのシスコンがぁぁぁあ!」 「ち、違う! そういう訳じゃねえええ!」 「では、姉妹セットでご購入ということですね? とミサカはこの粗大ゴミを見下ろしながら問います」 「粗大ゴミはこんな所に放置せず病院裏の集積所へ捨てるべきです。とミサカは一三五七七号はす ぐに実行しようと考えつつ提案します」 「粗大ゴミは勿体無いのでリサイクルすべきではないでしょうか。と、一〇〇三九号は独占を狙いつ つ――」 「ちょっとアンタたち、私の彼氏を粗大ゴミ扱いしてんじゃないわよ!」 「粗大ゴミは粗大ゴミです。とミサカは空気の読めないお姉様の発言に苛立ちを――」 * 結局、再び?燃え上がった姉妹ゲンカに巻き込まれ、何の為に病院へ行ったんだかまったくわから ないうちに、お怒りモードの美琴に連れられ外へ出た。なぜ怒っているのか問いかけたところ、「アン タがあの子たちにまで手を出すからでしょうがどバカ!」と怒鳴られた。どうやらさらに怒らせてしまっ たらしい。 仕方がないので少し恥ずかしいが抱きしめてキスしてやったら、途端に猫モードにシフトチェンジ したらしくおとなしくなった。最近ようやく美琴の扱い方がわかってきたかもしれない。 「アンタね、ちょっとは人の気持ち考えなさいよ」 「だから悪かったって。ほら、ヤシの実サイダーおごってやるからさ」 「い、いらないわよそんなもの。モノで釣れると思ったら大間違いなんだから。だいたい、私は飲み物 より、あ、アンタが……」 美琴は顔を赤く染めながら上条の顔を見上げていた。 「俺が、どうしたのか?」 「……ッ! このバカ!」 これは可愛すぎる訳で……。 しかし、ぎゅっと抱きしめたくなる衝動はぐっとこらえ、気になっていたことを聞いてみた。 「そういえばさ、結局何だったんだ? お前はなんだかずっと姉妹ゲンカしてたし、なんか知らねえ けど勝手に俺のIDカード作られてて関係者扱いされたし」 「え? あ、あー……、それね。私はあの子達に呼ばれたから行ったのよ。話しがあるからってね」 「話?」 「そう。なんかアンタと手つないで歩いてるところ見られちゃったらしくてねー。問い詰められただけよ」 「何だそんなことか……。てっきりあいつらに何かあったんかと心配してたんだぜ」 「……、あったと言えばあったわね、一人。胸とかお腹とか腕とか」 「は、はい?」 恥ずかしがり屋さんのスタイルの件を引きずっているらしい。 ちなみに抜け駆けの常習犯さんは、引き締まったウエストだけでなくバストも大きくなっている。 美琴や妹達の中で最もスタイルが良いらしいが上条はそれを知る由もない。 「なんでもないわよ! こっちの話」 「あのー、すげえ気になるんですが」 「気にすんなバカ」 「バカで悪かったですよー。じゃなくて、じゃあ関係者ってのは何なんだ? 勝手に俺の写真がIDカー ドに転写されてるんだが」 重要なのはそこである。上条の個人情報・写真などをもとにIDカードが作られていて、さらに指紋 なども登録されていた。本人の知らないうちに、だ。 「あー、それねー。私のIDカード作るって言うから、あんたのもついでに作ってもらったのよ」 「テメェかッ! 何勝手に作らせんだよ!!」 「いいじゃない。アンタはあの子達のお兄ちゃんなんだからね」 「お、お兄ちゃん?」 「私はあの子達の姉なのよ? その姉の彼氏は兄みたいなもんじゃない。だいたい、アンタがあの子 達を助けてくれたんだし、懐かれてるんだから立派な関係者よ」 「あのなぁ、それは否定しないけどな、一言くらい何かあってもというか本人の許可くらい取るだろふ つう」 「ゴチャゴチャうるさいわね。せっかく夜に星空の下を二人で歩いてるんだから、手つなぐとかもっと そういう雰囲気作りなさいよ」 そう言って、美琴は上条の右手を握った。が、 「ダメ。今は強引なお嬢様にお説教タイムです。とにかく、何で俺のID作らせたんだ? ついでじゃなく てなんか理由あるんだろ? 正直に言いなさい」 「ないわよ」 さらり、即答である。そして美琴は続ける。 「あったほうが無いより便利じゃない。それに、これからはアンタが関係者として病院へ行くことも増え るんだから」 「何で増えんだよ」 「私としては悔しいけど……、アンタも知ってる通り、あの子達はアンタの存在を必要としてるのよ? だからたまにでいいからアンタも“あの子達の家”に遊びに行ってあげること。おっけー?」 「遊びにって何だ? 何しろって?」 「雑談したりするだけでいいのよ。あの子達は“上条当麻という異性がいるから個性が出る”の。悔し いけどね。あ、許可なく浮気したらダメよ? 音速十倍以上で一〇センチくらいの鉄球を超電磁砲で プレゼント」 さらっととんでもないことを言う。しかし怒らせたら本当にされそうで恐いのだが。 「じゅ、十倍!? 三倍じゃねえのかよ?」 「三倍は公称値よ。コインを五十メートルプールの水に向かって限界まで手加減して音速の三倍毎分 八連発、それ以上だと測れないどころかプールが消滅するし。やったことないけど、巨大な金属の塊 でも本気でぶっ放したら、衝撃波で学園都市どころか都心まで吹っ飛ぶんじゃない?」 「いや、あの、やったことあったらもう俺どころか東京都民ほとんど死んでますから」 「大丈夫よ。もしそうなってもアンタだったら私を止めてくれるでしょ? 当麻には負けないけどこの右 手には勝てないわよ」 そう言って、美琴は自分の左手を握り締める上条の右手を引き上げた。幻想殺し(イマジンブレイ カー)――それは美琴にとっては敵であり必須でもある大切な彼の手。以前ほど漏電することはなく なったとはいえ、やはり不意打ちされたり妙に意識してしまうと漏電してしまうので、そんな時は右手 で止めてもらわなくてはならない。 「っていうか話はぐらかしすぎだろお前!」 「いいじゃない!」 美琴はクスリと笑い、 「私のため妹のため。裏も表も無いんだから、アンタはそう考えてればいいのよー」 「あ、おい待てコラ!」 上条の手を離し、タッ、と走り出す美琴。 そして美琴を上条が追う。 いつもとは逆の追いかけっこが、星空の下で始まった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12月1日  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 今日、街で考え事をしながら歩いていて つい周りが見えなくなってしまいましたの。 気付いた時には階段を転落しそうになり、 能力も使えず大怪我を覚悟したところ、 あの腐れ類人猿がまたしても わたくしを助けてくださいましたの。 そんなことで高感度をあげて、お姉様を 奪おうなんて百年早いですわ。 ケッケッケ。 でも、本当に助かりましたの。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある恋人の日常風景
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とあるベランダの超電磁砲 第一章 ベランダの少女~rail gun~ 上条当麻は人間だ。 女の子を助ければ不良に追いかけられ、 ビリビリ中学生に会えばビリビリされ、 朝起きて電話に出れば『上条ちゃーん、バカだから補習ですー♪』と、担任からの連絡網(ラブコール) そして7月20日8時現在 「・・・・・・ダメだ、腐ってやがる」 謎の雷によって冷蔵庫がやられ、中身も全滅していた。 これでは朝食も作れない。 「さ、さーて、布団でも干すか」 どうしようもないので布団を干すことにした。 布団を持ち上げ、ベランダへ向かうと、何かを踏んだ。 見ると賞味期限一週間前の焼きそばパンだが、もはや日常なので気にしない。 「いやー、今日は天気もいいし、絶好の布団干し日和だ」 (・・・・・・あれ?俺いつ干したっけ?ていうかこれ) 上条がベランダの窓を開けると、彼の見覚えのあるものが干されていた。 「・・・・・・何でビリビリが俺んちに干されてんの?」 「ビリビリ言うな」 いつもだったらすぐに電撃を飛ばすところだが、何故かしない。 少し、元気もようだ。目に少し隈(くま)もできている。 「えっと、まあ、入れよ、御坂」 ベランダに干したままにすることもできないので、部屋に入れることにした。 「というか、制服はどうしたんだよ」 彼女が着ているのはいつもの常盤台の制服では無い。 ハートの絵が施されたシャツと短パンを履いている。 「で、何でお前は俺んちに干されてたの?」 「いいでしょ、別に」 服のことはもういい。そろそろ本題に戻そう。 「ちょっと追われててね。詳しいことは、ごめん。今は言えない。ねえ、少しだけ、ここにいさせて」 「騒動がおさまるまで、家にいるか。落ち着くまでここに居ていいぞ」 「・・・・・・ありがと、じゃあ少し、ここにいさせて」 「そうか、って、もうこんな時間!!じゃあ俺、補習行ってくるから」 上条は補習へと出かけてしまう。 (どうして、ここに居させてって言っちゃたんだろう。迷惑かけるかもしれないって、わかってたのに・・・・・・でも) でも何故か彼女は言ってしまった。 上条だから、甘えることができた。 (それにどうして、あいつは居ていいって行ったのかな。事情も言えないってのに) 上条がどうしてそうしたのかは、今の彼女にはわからなかった。 「・・・・・・何しようかな」 上条が出かけてしまい、手持ち無沙汰になってしまった美琴。 ふと、上条の布団が目に付いた。 おもむろに、布団にくるんでみる 「あいつの布団、あったかい。これで寝たら、あの夢も・・・見なくて、済み・・・そう・・・」 「ただいまー、御坂?」 「スー、スー」 美琴が上条の毛布にくるまって寝ている。 (寝てんのか、まあ疲れてたみたいだったし) その顔はとても安らかだ。 「可愛い寝顔じゃねえか。いつでもそんなだったらいいのに」 いつもは会うたびにビリビリして勝負を仕掛けてくる。 そんな彼女にもこんな一面があるのだと、上条は思った。 なんとなく、美琴の髪を優しく撫でてみる上条。 (って、なにやってんだ俺!?) 上条は慌てて美琴から手を離す。 「・・・んにゅ・・・あれ」 今ので美琴が起きてしまったらしい。 「あ、すまん、起こしちまった」 自分が寝てしまっていた事に気付く美琴。 「あ、ごめん、寝てた」 「いいよ、そろそろ夕飯を作るけど食ってくか?」 「・・・・・・食べてく」 「よし、今日は腕によりをかけて、上条さん特製のシチューだぞ。お嬢様の口に合うかはわからんけどな」 上条が夕飯を作ろうとしたその時 白い光線が、目の前を横切った。 (え・・・な、にが・・・・・・) 謎の光線が当たった窓ガラスが溶けてなくなっていた。 「チッ、外れたか」 声の聞こえた方を見ると、大きく穴が空いた扉から『化物』が、入ってきた。 「やっと見つけたぞ、第三位!!」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とあるベランダの超電磁砲
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第二章 とある二人の最悪の再会 学園都市の反乱組織が行動を起こす前に排除せよ。 それが春木の今回の仕事だった。 「たく!どうせ失敗すんだから。意味無いつぅの!」 彼女が向かっているのは、反乱組織の隠れ家だ。彼女は依頼人が用意した車に乗っている。 余裕の表情をしている春木に、運転手は質問した。 「人数は五十人前後と聞いてますが、余裕ですね?何か秘策でも?」 「ん?無いよそんなの。必要なぁいし。」 「ではどうやって?」 「風ってけっこぉ使えるよぉ。くふぅすれば、岩も切れるしぃ。」 「はぁそうですか。あっ着きましたよ。」 着いたのは一見見れば普通のアパートだ。 「んじゃねぇ。」 春木はアパートの横の階段を駆け上がると、一室の前に立つ。 部屋は静かだ。しかし耳を澄ませばカチャカチャと音が聞こえてくる。得物のチェックをしているのだ。 春木はドアをぶっ飛ばし言う 「はぁい。【ウィング】でぇす。あたしが来たからには、一人残らず潰してあげるからぁ。覚悟しろ。」 反乱組織は、ギョッとした顔で春木を見つめた。 そして彼等は思い出す。春木が【ウィング】と名乗った事を。 顔色が変わる。不安と恐怖と疑問が入り混じった顔だ。 彼等は逃げようとする。しかし春木は許さない。 ビュンと、風が吹き彼等を部屋の中に連れ戻す。 「なぁにぃ?女の子一人に逃げ出すのぉ?」 彼等は春木に銃口を向ける。リーダー格っぽい男が叫ぶ 「あいつは一方通行じゃねえ!!銃で撃たれれば死ぬんだ!!撃て!!!」 「んーんー。いぃよぉ。じゃんじゃんこぉい。」 余裕の顔の春木を不気味に思うが、彼等はとりあえず撃った。後は銃弾が勝手に蜂の巣にしてくれる。 が、春木の体は変わらない。蜂の巣にならない。 春木の起こした風で銃弾の軌道がそれ、彼等に向かってた。 「ッ!?」 のたうちまわる彼等を見て笑っていた。 うっすらと。 「排除成功♪」 春木は笑っていた。見下すように。 と、声をかけられた。 「なにやってんだよ・・・・。」 路地裏であった少年。上条当麻だ。 (どうする殺す?ダメだ。まだ誤魔化せる。) 慌てて恐怖の顔に変える 「・・・・じゅっ銃声が・・・聞こえて・・・きたら・・・犯人が逃げて・・・。 あっあっ警備員呼ばないと・・・あたしの電源切れてて。」 「そうか・・・あっ俺のもクソッどっかに公衆電話は―――」 ドタドタドターと階段を下りていった。 居なくなったのを確認し電話をかける。 「終わったよ。回収早くね。見つかったから。」 『えっどうい―――』 春木は返事を待たずに電話を切った。 (早く離れないと。) 窓から下に下りた。急いで離れる。 知られる訳にはいかないのだ。 彼を闇に堕とさないように。
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とある女子寮の狂想曲 イギリス、ロンドン。 表向きには世界有数の観光地であり、町の一角には日本街などもあったりする。 ただしそれは表の顔、実際には宗教魔術国家イギリスの中心、聖ジョージ大聖堂などの魔術的施設が多く立ち並ぶこれまた世界有数の魔術都市となっていた。 そんな町の一角に一軒のマンションのような建物が建っていた、それは古き町並みを残すロンドンの中でも一際年代を感じさせる風合いの建物だ。 完璧に風景に溶け込むようなその建物はイギリス清教でも魔術師との戦闘に特化した集団…「必要悪の協会(ネセサリウス)」の戦闘員が使用する女子寮だった。 この建物はロンドンに潜伏する不穏分子をおびき寄せるための「エサ」としての役割も兼ねており、魔術による防御策のようなものは一切施されていない。 よってこの女子寮は何時攻撃されるか分からないような緊張感、そして何時でもそれを迎撃できる警戒感が漂っている、否、漂ってるハズ。 ゆっくりと煙草の煙を燻らせながらそんな事を考えていた炎の魔術師ステイル=マグヌスの幻想は件の女子寮に到着した時点でぼっこぼこにブチ壊された。 「シスター・アンジェレネ!それは生チョコです歯ブラシに付けて口に含むものではありません!!」 「ふえぇェェェっっ!?甘い歯磨き粉かと思ってました!!」 「茶色い時点で気づきなさい!!」 「かっ、神裂さん!?洗濯機が火噴いちまってんですけど!?」 「火ですか!?もはや煙を通り越したのですか!!?」 「おや、皆さん朝からお元気でございますねグゥーー」 「シスター・オルソラ!それは私の修道服です顔を拭かないでください!!」 この時点でステイルは女子寮のベルを鳴らすことを放棄し、くるりと踵を返す。 そこに浴びせられる戸惑いの声。 「おいステイル?お前が居なくなっちまったら俺どうすんだよ!?めちゃめちゃ気まずくねぇか!?」」 「知った事じゃ無いね、むしろ万々歳だ」 「うぅ…もはやこんな小さな事でも不幸を味あわされるのか…」 「良かったじゃないか、とてもお似合いだよ上条当麻」 ○ 朝から壮絶なるドタバタを繰り広げていた「必要悪の協会」女子寮は一旦の落ち着きを取り戻していた。 「全く…何でまた洗濯機に食器を入れてしまったんですか貴女は。」 いやそのあのですね、と真っ青な顔で絶賛懺悔中のアニェーゼを全力で叱る訳にもいかず、かと言ってこのまま洗濯機をほったらかしとくのもうーん、と悩む神裂、と。 「おい神裂、客だ。」 いつものスケスケ、でも鉄壁ガードというとんでもない寝巻きで現れたのがシェリー=クロムウェル、「必要悪の協会」のゴーレム使いである。 「また貴女は朝まで石彫りを続けていたのですか?…ていうかその格好で客人を迎えたのですか!?」 「大丈夫よ、アンタも私も知ってる奴だから。」 「…?」 神裂は何も知らずに玄関へと急いだ。 続く
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とある女子寮の狂想曲 さて、話が変わるがこの女子寮には和室が存在する。 実質使用しているのは神裂のみなのだが、日本人の客のどをもてなす時などにも活用される。 そんな障子で仕切られた部屋に正座する人間が二人、片方は日常的にこ部屋を使用する神裂であり、ここまでは何の違和感も無い。 さてもう一人。 今世界中で巻き起こる紛争及び戦争の超中心人物であり超平凡な高校生、その名は。 「何でここにいるのですか上条当麻!!」 「ええぇぇぇェェェっっっっ!?別にまだ上条さん怒られるようなことしてませんのことよ!?別に今日は変な魔術師の団体に命狙われてねぇし!!」 「ちょっと待ってください、だってもう学園都市の外にいる時点でイレギュラーでしょうに!!しかも何故ここ!?」 「知らないもん!何か担任の先生に「上条ちゃんは馬鹿なので外国で修学旅行なのです…?」とか変な疑問形で言われただけだもんね!!」 実際には学園都市の長アレイスターによる「プラン」省略のための布石だったりするのだがそんなことを超平凡な高校生が知る筈もなく。 「で、何かローラさんとかいう人が面白そうだから此処に泊まれって。」 「馬鹿ですかあの女狐ェェェェェェェっっっっ!!!」 何時に無く荒れる神裂にビビりまくる上条、当の本人は知らないがここは女子寮である。そこにこの人間を泊まらせるとなると……、 「い、いったい何人修道女を辞めなければならなくなるのでしょうか……」 「どういうこと!?アナタの目には私は貪欲な変態魔神に見えてるのでせうか!?」 「そこの障子から何人かが興味深そうに覗いてる時点でもう危ないんですこの旗男が!!!」 どぴっしゃーーーん!と聖人の力をフル活用して障子を閉める神裂に震えまくる上条はでっかい鞄から包みを取り出し 「かかかかかか神裂さん!?ここは一つお土産で気を落ち着かせてくれませぬか!?」 「……日本人が日本のお土産を貰うのはどうなんでしょう」 そう言いつつもやっぱりちょっと嬉しそうにしてしまう神裂、それを見た上条は (ありがとう土御門!お前から渡されたお土産で俺の命は救われた!) 「開けてもいいですか…?」 「どーぞどーぞ」 (何でしょう、触ったところ何か服のような物でしょうか…?) 曲がりなりにも上条当麻からの贈り物ということで若干ドキドキしてしまう神裂火織十八歳。 色々と期待しながら包みを解いていく彼女が見たものとは、 派手なピンクの衣装とそこに張られた「女子高生ツンデレメイド」の文字だった。 「上条当麻ァァァァァァァァァァぁぁぁッッッッ!!!!」 「なっ、何なんでせうかってオイ!何持たせてんだよ土御門!?…神裂さん!?これは土御門のアホンダラが仕掛けた愉快なハニートラップであり上条さんは何一つ悪くないのでありましてですねーーッ!!?」 そんな血なまぐさい光景をオルソラやアニェーゼなど幾百人ものシスターが覗いていたのはまた別の話。 続く